危機管理のプロが教えるリスクマネジメント
- 2021.10.22
- プロパートナーONLINE 編集部

第1章 天災などの緊急事態下でも危機管理対策で事業継続
経営活動には、コンプライアンス遵守といった法整備や、自然災害・感染症への対策と備えが不可欠。
〝何か〟が起こってからでは、取り返しのつかない場合も。
そこで危機管理対策のプロである田中直才氏が、
事業を継続するための危機管理対策の重要性とポイントを解説します。
危機管理対策が今後ますます重要に
新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが世界を席巻しています。2020年3月にWHOがパンデミックを宣言してから1年以上経過しましたが、
これほど長期間、コロナ禍が続くとは誰も思っていなかったのではないでしょうか。
2009年に新型インフルエンザが一部で猛威を振るいました。
このときが感染症蔓延という災害に対する危機管理を検討する絶好の機会でした。
この世界的なパンデミックという災害に際し、万全とはいかないまでも、
ある程度の備えをされていた事務所はどれだけあったでしょうか。
新型コロナウイルス蔓延という大災害によって、
感染症対策が焦眉の急となっています。
対策には万全を期すべきですが、我々が警戒すべき災害は感染症だけではありません。
日本で業務をする限り、
地震や台風などの自然災害に遭遇するリスクも、避けることはできません。
特に地震は、日本中どこにいても被災する可能性があります。
とりわけ、発生確率が高いとされている東海地震や東南海地震、南海地震、
首都直下地震などで甚大な被害が発生すると予測されている地域では、特に注意が必要です。
いつ発生するかわからない地震は、施設などの物的被害だけでなく、
従業員や顧客などに死傷者が発生することもありえます。
従業員とその家族に対する安否確認手段の整備など、
応急対応に関する体制の確立が求められます。
また、火山学者の間では、富士山はいつ噴火してもおかしくないといわれています。
噴火に伴う溶岩の流出や火砕流などによる被害は限定的ですが、
火山灰によって、大きな被害が発生すると想定されています。
噴火の規模、風向きによっては、関東地方でも10㎝の降灰があると想定されており、
停電や交通機関の麻痺などの被害が長期間にわたるともいわれています。
不測の事態に備えた事業計画策定が肝
感染症蔓延や地震などの災害により事務所の業務が中断することは、なんとしても避けたいところです。
そのような事態に陥ることがないよう、
BCP(BusinessContinuity Plan/事業継続計画)を策定することが求められます。
BCPとは、会社・事業所が自然災害や大規模テロなどの緊急事態に直面しても、
事業を絶えることなく継続させていくための手段や手法などを取り決めておく計画のことです。
緊急事態は突然発生します。
策定したBCPにもとづき、有効な手立てを講じないと、事務所機能が中断し、
顧問先をはじめとする関係各所に迷惑をかけてしまうことになりかねません。
BCPを策定していない事務所は、ぜひともこの機会にBCP策定を検討してみてください。
2020年の帝国データバンクの調査によると、BCPを策定している会社は、
現在策定中も含めると、調査対象約2万2000社中26・3%です。
まだまだBCPを策定していない会社が多く存在します。
先生方の顧問先においても、BCPを策定されていない会社が多いのではないでしょうか。
いつ襲ってくるか分からない自然災害に備え、
顧問先などに対してもBCPの策定を奨励することで、顧問先を守ることができます。
災害に遭遇した際、何も備えをしていない会社では、
事業の復旧が大きく遅れて事業の縮小を余儀なくされたり、
廃業に追い込まれたりする恐れがあります。
一方、BCPを導入している会社では、
緊急時でも中核事業を維持・早期復旧することがきるうえ、
その間の対応が取引先などから評価され、
緊急事態前よりも業績が向上したとの例もあります。
このように、BCPを導入しているかどうかで災害時の事業存続や業績に大きく影響します。
自らの事務所はもちろん、顧問先を守るうえでも重要ですので、
ご興味がある先生は、ぜひ当事務所までご連絡ください。
今回は、災害などの外部要因に対する危機管理の必要性について、
BCPの策定を中心に言及しましたが、
備えるべきリスクは外部要因だけではありません。
所内のハラスメント、不適切なSNSの発信による炎上、
重大なコンプライアンス違反などの内部要因から発生するリスクについても、
具体的な危機管理策を講じておく必要があります。
第2章では、内部要因から発生するリスクについて取り上げ、
そのリスクに対して講ずべき対策について言及します。
第2章 規程・罰則・教育の徹底でSNS炎上を回避
TwitterやFacebook、YouTubeといったSNSは、認知拡大やブランディング、ファンづくりにおいて、士業事務所でも不可欠の時代に。
その一方で、何気ない投稿が命とりになる恐れもあり、
「炎上」してからでは、取り返しのつかない場合も。
SNS上での炎上防止策を解説します。
便利なツールだからこそ利用ポリシーを明確に
第1章では、事務所経営上の外部リスクとして、地震や台風、感染症などの自然災害を取り上げて、その対応策について言及しました。
安定した事務所経営をしていくうえでは、このような外部リスクだけではなく、
セクハラ・パワハラなどのハラスメントや、
能力や素行に問題がある従業員に対する対応など、
社内に潜むリスクへの備えが必須です。
内部リスクは多岐にわたるため、各種リスクに応じた対策を講じる必要があります。
今回は、昨今問題視されているSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の、
「従業員による発信に関するリスク」について言及します。
SNSの発展は目覚ましいものがあります。手元にスマートフォンさえあれば、
誰でも気軽に自分の考えを世の中に発信することができるようになりました。
プライベートで差し障りのない発信をしているうちは問題ありませんが、
世間から反感を買うようなモラルを逸脱した発信をすると、
いわゆる「炎上」という状態になり、
世間からバッシングの集中砲火を浴びることになります。
特に士業業界のビジネスでは、「信用・信頼」が大事な要素ですから、
SNSでの炎上トラブルは死活問題です。
万が一、事務所と関わりがないところで一個人が炎上してしまい、
その個人の所属先が特定されてしまうと、
世間からの非難の目が所属先にも向けられることになります。
また、顧客の経営数字や給与情報など、
重要な個人情報を多く扱う士業事務所においては、
従業員によるSNSの発信によって個人情報が流失するといった事態は、
絶対に避けなければいけません。
軽い気持ちでSNSに投稿したことで、
これまで事務所が築き上げてきたブランドイメージが一瞬にして崩れ去ってしまうリスクが、
どの事務所にも内在しています。
「SNSはプライベートなことだから」と、個人の自由に任せるのではなく、
危機管理の観点から、事務所として何らかの対策を講じることが強く求められます。
これらの対策として、大きく二つあげられます。
対策①
ソーシャルメディア利用ポリシーなど規程を整備する
顧客情報や人事情報など、事務所内で保有している機密情報は、
事務所の公式アカウントはもちろん、
個人アカウントでも発信を全面禁止とする規程を策定し、
抵触する行為をしたものは懲戒処分と明示しておきます。
また、ソーシャルメディア利用ポリシーなどを定めて、
SNS使用に関する事務所としての考え方を明確にしておきます。
対策②
従業員に向けた研修の実施
一昔前に話題になりましたが、某外食店のアルバイト社員が、
客に提供する料理をゴミ箱に入れる動画をSNSで公開し、炎上しました。
これをきっかけに、ほかの外食店でも同じような動画が次々と発掘され、
投稿される度に炎上し、報道されたりと、社会的に物議を醸しました。
誰が見てもおかしいと感じることであっても、人はSNSに投稿してしまいます。
それは、理性より承認欲求が勝ってしまうことが大きな要因の一つと考えられます。
従業員に対してリスク研修をする際には、この点も念頭におき、
一時の承認欲求を満たすために行った行為が、
自分や事務所にどう跳ね返ってくるか想像できるように説明することが重要です。
また、研修の際には事務所が策定したSNS使用に関する規程内容について、
十分な時間をとって説明します。
違反した際の懲戒処分の内容についても説明し、
事務所として違反者に対して厳しい姿勢で臨むことを明確にしておきます。
以上、従業員の不適正SNSの発信に絞り、
必要なリスク管理について言及しましたが、
先述のとおり、内部要因に関するリスクは、不適切SNSだけではありません。
事務所に内在するリスクをすべて洗い出し、それらに適切に対応していくことが求められます。
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中小会社に影響のあるリスクとその対応策を実務的に解説。
机上の空論ではなく、理論と経験をミックスすることで得られた独自の見解を踏まえ、
具体策を提示しています。
プロフィール

田中 直才氏
HK人事労務コンサルティングオフィス 代表 社会保険労務士/企業危機管理士
大手製薬会社にて労組専従役員として従事後、コンプライアンス教育などを担当。これまでの経験を活かし2020年1月に開業。著書に「中小会社の危機管理がわかる本」(セルバ出版)など多数。
大手製薬会社にて労組専従役員として従事後、コンプライアンス教育などを担当。これまでの経験を活かし2020年1月に開業。著書に「中小会社の危機管理がわかる本」(セルバ出版)など多数。
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