手続き業務はなくなるのか!? 『HRテック2022』レポート〈Part2〉
- 2022.06.03
- プロパートナーONLINE 編集部
2022年3月8日に開催された、オンラインイベント『HRテック2022』。
社労士事務所向けのHRテック(労務監査クラウド、助成金クラウド、HRbasePRO)を
提供している3社が合同で実施したイベントをレポート!
Part2では、「HRテックでどのような未来を描くか?」
「システムによって手続き業務はなくなるのか?」といったテーマで
本音を語り合ったトークセッションの様子をお届けします!
※株式会社SmartHRの副島智子氏による基調講演をまとめたPart1はこちら
〈イベント概要〉
【3社合同オンラインイベント】
開発者大集合
専門家×労務管理×システムの上手な付き合い方、みんなで考えます
開催日 :2022年3月8日(火)
開催方法 :オンライン配信
パネリスト:
株式会社全国労務診断協会 代表取締役
社会保険労務士法人サトー 経営責任者
今田真吾氏
株式会社ホロンシステム
佐藤 洋之氏
コーディネーター:
株式会社Flucle CEO
三田弘道氏
基調講演 :
株式会社SmartHR執行役員・人事労務研究所所長
副島智子氏
ノウハウが事務所に貯まっていかないのは、もったいない
イベント後半では、
労務監査クラウド『ヨクスル』を開発・提供する
株式会社全国労務診断協会の代表取締役で、
社会保険労務士法人サトーの経営責任者でもある今田真吾氏、
『助成金クラウド』を開発・提供する株式会社ホロンシステムの佐藤 洋之氏、
『HRbasePRO』を開発・提供する株式会社Flucle CEOであり、社労士でもある三田弘道氏、
そして株式会社SmartHR執行役員・人事労務研究所所長の副島智子氏による
トークセッションを実施。
「各サービスが描く未来像」「クラウドで手続き業務はなくなるのか?」
といったテーマを、システム開発者と社労士それぞれの視点で解説しました。
コーディネーター
株式会社Flucle CEO/社会保険労務士
三田弘道氏
大阪大学大学院在学中に社会保険労務士試験に合格。
2015年に株式会社Flucleを起業し、『HRbaseサービス』を開発。
労務相談業務を社労士のさらなる価値とするため、クラウド型顧問業務支援サービスの開発に携わる。
三田:システム開発で重要なのは、
どういう課題を解決したいかという思想観だと思っています。
なぜなら、機能の開発は、思想観に沿って行われるからです。
そこでまずは、それぞれの開発のきっかけからお伺いできればと思います。
今田:私たちが提供している労務監査クラウド『ヨクスル』は、
労務監査業務の効率化、標準化のためのサービスです。
このサービスを開発したのは、社会保険労務士法人サトーでの課題がきっかけです。
社労士事務所ではよくあるのですが、
入社してすぐに担当は持つけれど、教育がないので何もわからない。
先輩たちと同じ顧問料をもらっているのに、
先輩たちのように相談に答えられないんです。
また、10数名の規模になると、
所長が持ち切れなくなった業務を職員に分配するケースも多くあります。
この時点で、サービスの質は下がります。
業務が属人化してしまう、ノウハウが事務所に蓄積されていかない、
忙しくなると情報が遅くなるなど、
事務所の規模が拡大するにつれて起こる「あるある」を
解決したいと思い、労務監査クラウドを開発しました。
パネリスト
株式会社全国労務診断協会 代表取締役/社会保険労務士法人サトー 経営責任者
今田真吾氏
通信会社勤務を経て、2008年社会保険労務士法人サトー入社。
現在は、経営責任者として自社のマネジメントを行うとともに、
社労士向け「労務監査クラウドサービス」を開発し、社労士のDXを推進している。
三田:確かに、属人化はどこの事務所でも課題になっていると思います。
私自身、社労士事務所に勤めていた際、
自分のノウハウが自分のためにしかならない、
事務所に貯まっていかないことが、すごくもったいないなと感じていました。
これを変えたいと考えたことが、
労務相談のノウハウを蓄積して標準化する『HRbasePRO』を開発した理由です。
佐藤さんはいかがですか?
佐藤:私たちの提供している『助成金クラウド』は、
助成金申請業務の効率化や進捗管理ができるサービスです。
開発を決めたのは、自社で人材開発支援の助成金申請をした際、
とても大変だったからです。
助成金は、申請する側に苦労を強いる仕組みだと思うんです。
それは、経営者に対して労務の考え方を改めてもらって、
制度を整えるためなのですが、実際とても手間がかかります。
それなのに、HRテックがどんどん登場するなか、
助成金に関してはシステムがなかった。
私たちのような小さい会社でも、そういうサービスを提供すれば、
助成金を申請してみようという人の役に立てるのではないかと思いました。
パネリスト
株式会社ホロンシステム
佐藤 洋之氏
アップル合同会社、株式会社ジャストシステムを経て、
株式会社ホロンシステムにて2020年2月より「助成金クラウド」を提供開始。
現時点で唯一助成金の申請書作成・管理をクラウドで行えるサービスを展開。
当たり前が変わったことで、手続き業務を「誰がどうやるか」が変わる
三田:ありがとうございます。
次に、社労士の未来像について話したいと思います。
さまざまな手続きのシステムが登場して、社労士業界でも
「手続きってなくなるの? なくなったら、社労士はどうなるの?」
という議論はよく起こります。
社労士事務所の経営者でもある今田さんは、
手続き業務はどうなっていくのか、
未来をどう予測しながら経営をされていますか?
今田:当社は、職員が72名ほどいるのですが、
そのうち50名がアウトソーシング部門です。
ただ、私の予測では、手続き代行業務は100%なくなると思っています。
今は、アウトソーシングのニーズが高くて、
うちもずっと伸び続けてきました。
でも、あと1〜2年で急激に少なくなると考えています。
実際、昨年初めて、アウトソーシング部門は前年比で少しマイナスになりました。
そのなかで、どうやってアウトソーシング部門を維持していこうかと考え、
従業員対応業務を受け始めています。
たとえば、勤怠管理システムを使って、未打刻の人にアプローチしたり、
相談にのったりというところまで、フルで受ける。
あとは、お客様が給与計算したものを
二次チェックするようなサービスを準備しています。
三田:1〜2年後にアウトソーシングのニーズが急激に減るというのは、
かなり衝撃的な話ですね……。
副島さんは、今の状態がどう加速していくとイメージしていますか?
副島:私は、手続き業務はなくならないと思っています。
手続き業務は、従業員のライフイベントのタイミングで会社が行うものなので、
会社が関与している限りはなくならないはずです。
マイナンバーと連携したシステムも開発されていますが、
あと5〜10年はかかるかな、と予測しています。
パネリスト
株式会社SmartHR執行役員・人事労務研究所所長
副島智子氏
IT系ベンチャーや製薬会社、外食企業など、さまざまな規模・業種の会社で15年以上の人事労務経験を持つ。
2016年3月にSmartHRへ入社、2019年7月、SmartHR 人事労務研究所を設立し現職に就任。
佐藤:私も、すぐにはなくならないと考えています。
厚労省や社会保険庁はシステム開発に動いていますが、
それができるまでは現行のシステムを使わないといけません。
まだ、受け手側の体制が整っていないんです。
ですから、システム会社の観点からいくと、
手続き業務がなくなるまでには10年、20年かかりそうな気がします。
ただ、一人ひとりの社労士さんが力を高めていくことは、
今の世の中には必要です。
システムを使って、なるべくラクをしてながら、
力を高めていただくお手伝いをしたいと思っています。
副島:手続き業務はまだなくならないのですが、
「手続きを誰がどうやってやるのか」というのは変わると思います。
たとえば、以前は社労士さんにアウトソースしていた企業が
内製に切り替えるケースもあると思うのですが、
その理由として、社労士さんに仕事を依頼するという業務が、
けっこう大きなタスクだということがあります。
内製なら、自分たちのタイミングで業務を進められます。
また、これまでの人事・労務の仕事は、
起きた事象に対してアクションすることが多かったのですが、
これからは、人事・労務担当者は働き方に関するスペシャリストになっていくと思います。
「従業員から、いかに労働力を提供してもらえるか?」が、この先の勝負所です。
たとえば、リモートワークで場所に関係なく仕事ができることを
従業員側がわかったからこそ、
企業はその制度を継続するのか、
継続するならどう運用していくかを考え続けないといけません。
法改正も多く、政府が押印廃止に向けて動いていたりと、
「新しい当たり前」が始まっています。
今が、企業側も社労士さん側も転換期だと思います。
三田:なるほど。社労士としても、依頼されて動くスタイルから、
お客様と協働するような関わり方に変わるのかもしれませんね。
副島:社労士さんから能動的なアクションを起こしていただくと、
企業側はすごく嬉しいんじゃないかと思います。
今田:私も、社労士が能動的に、お客様にあったプランを
提供することに集中していくべきだと考えています。
そのときに、システムを使って、みんなでノウハウを共有できれば、
もっとお客様に対する時間が増えていきます。
一つの事務所だけが自分たちだけで頑張っていくのではなく、
共有できるプラットフォームがあって、効率化して、
お客様に対して属人化したサービスを提供していくというのが、
社労士の良い未来なんじゃないかと思います。
三田:企業は、規模が大きいとノウハウと資本があり、
小さいと小回りが利くという二元論になることが多いのですが、
一人でもネットワークをつくることで、
小回りも利くし、大企業のノウハウも手に入るという展開が出てきますね。
手続き業務は、もしかしたら20年後になくなっているかもしれませんが、
社労士が並走して専門知識を使うという部分はなくならないと思います。
手続き業務がなくなるから業界が縮小していくのではなく、
ツールを活用して新しい働き方を一緒につくっていければと思います。
〈各社のシステム詳細はこちら〉
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