2023.09.25
インボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応に関するお知らせ

2023年10月01日(日)より、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されますので、弊社の同制度への対応についてお知せいたします。

弊社ではインボイス制度の対象となる課税取引のご利用について、
2023 年10月以降の決済分より、同制度の要件に対応できるようにいたします。

【当行適格請求書発行事業者登録番号のご案内】
株式会社アックスコンサルティングの登録番号をご案内いたします。

適格請求書発行事業者登録番号
T9011001004344
 

今話題のビットコイン!明示されていない課税関係を元国税調査官・試験組税理士が説く

元国税調査官・試験組税理士が説く!ビットコインの明示されていない課税関係

 

Ⅰ ビットコインの課税関係の現状

投機的な値動きから、日々大きな話題になっているビットコインですが、その課税関係については国税から原則として雑所得に該当するという見解が公表されています。
この見解に加え、国税は具体的な損益計算などについて「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」という情報も公開していますが、実際のところこれだけではビットコインに係る課税関係をつかむことができません。

例えば、以下のような質問が寄せられています。
1 ビットコインに時価評価が必要になるかどうか(法人税)
2 ビットコインの投資家が国外転出した場合、どのような課税関係になるか


 

Ⅱ 法人税の時価評価との関係

ビットコインは投機の対象であることがほとんどで、かつ毎日の時価が明確ですから、法人でビットコインに投資をした場合、売買を目的とする有価証券のように、時価評価が必要ではないかといった見解も多くあります。
特に、ビットコインが支払いの手段にもなり得ることもあって、中には外国通貨のように各事業年度において時価評価する必要があるのではないか、といった疑問もあります。
この点、明確な見解はありませんが、少なくとも現行法では時価評価の対象にはならないと考えられます。

各事業年度において時価評価の対象になる資産は、現行法人税法においては、原則として以下とされています。

1 短期売買商品(法人税法61条)
2 売買目的有価証券(法人税法61条の3)
3 デリバティブ取引等(法人税法61の5)
4 外国通貨など、一定の外貨建資産(法人税法61条の9)

結論から申し上げますが、ビットコインは上記にはあたりません。
1の短期売買商品は、「金、銀、白金その他の資産」のうち一定のものを意味するとされています(法人税法施行令118の4)。
ここでいう「その他の」とは例示を示しますので、金や銀、そして白金のような資産が該当する訳ですが、ビットコインはこれらの現物資産とは異なりますので、ビットコインはこの定義に当たらないと考えられます。
2の売買目的有価証券ですが、これにも該当しません。ビットコインは、「資金決済に関する法律」という法律において、以下の通りに定義されています。
-------
資金決済に関する法律2条(定義)5項
この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
----------

一方で、法人税における有価証券は、法人税法2条(定義)21号と法人税法施行令11条(有価証券に準ずるものの範囲)に定義があります。
この定義をご確認いただくと、上記の資金決済に関する法律における「仮想通貨」は、有価証券の定義に含まれませんので、有価証券になることはなく、売買目的有価証券にも該当しないと考えます。

これに関連して4の外国通貨など、一定の外貨建資産についても同じことが言えます。
上記の資金決済に関する法律2条5項において、「外国通貨並びに通貨建資産を除く」とあることから、外国通貨などはビットコインに該当しません。
結果として、法人税における外国通貨や外貨建資産の定義にも、ビットコインは含まれないと考えられます。

最後に残った3のデリバティブ取引等ですが、これは法人税法施行規則27条の7(デリバティブ取引の範囲等)1項に定義があります。
この条文におけるデリバティブ取引の定義をご覧いただくと、金融商品取引法や銀行法のデリバティブ取引がこれに当たるとされています。
資金決済に関する法律2条5項は、この条文における定義には書かれていません。

何より、デリバティブ取引とはそもそも金融商品から「派生」した商品を取引対象とするものです。
株式などの金融商品そのものではなく、それから派生した先物取引やオプション取引がデリバティブ取引となり得ますので、ビットコインという金融商品そのものを売買したとしても、デリバティブ取引には当たらないと解釈するのが妥当でしょう。

以上を踏まえれば、ビットコインを会社で保有したとしても、各事業年度において時価評価をする必要はないと結論付けられます。

 

Ⅲ 国外転出した場合の課税関係

次に、これも非常に多い質問ですが、日本でビットコインの投資をしていた居住者が、ビットコインで大儲けをしたため、今後の税金対策の必要性から国外に拠点を移すといったことがあります。
この場合、日本の税務上は国外転出時課税(所得税法60条の2等)が問題になります。
国外転出時課税は、1億円以上の有価証券などを保有する居住者が国外に転出した場合、その有価証券などの含み益に対して所得税を課税するという制度です。
この国外転出時課税の対象となる資産に、ビットコインが含まれるのではないかといった疑問が多いようです。

国外転出時課税の対象となる資産は、原則として以下とされています。
1 有価証券
2 匿名組合契約の出資持分
3 未決済のデリバティブ取引


法人税法と所得税法という違いはありますが、有価証券やデリバティブ取引の定義は大きく変わりませんので、上記Ⅱにおいて、1や3にビットコインが含まれないことは既に確認した通りです。
加えて、2の匿名組合契約の出資持分には明らかに該当しませんから、結局ビットコインは国外転出時課税の対象にならないと考えられます。

となれば、多額のビットコインを持って国外に転出したからといって、ビットコインの含み益に対して日本の税金はかからないと考えられます。

 

Ⅳ 国外で譲渡等した場合の課税関係(国内法の取扱い)

最も多くの質問が寄せられているのが、国外に転出した後に外国でビットコインを譲渡等した場合の課税関係です。
特に、ビットコインの投資には多額の利益が見込まれることから、投資する段階で日本の高い税金を嫌い、国外に拠点を移す投資家も多いと聞いております。

国外で譲渡する場合、すなわち非居住者になってからビットコインを譲渡する場合の課税関係については、所得税法(国内法)と租税条約に分けて、取扱いを考える必要があります。

所得税法の取扱いについてですが、非居住者については、所得税法161条(国内源泉所得)1項の国内源泉所得を有する場合に、所得税が課税されます。
所得税法161条1項においては、17個の国内源泉所得が列挙されていますが、その列挙をご覧いただくと、国外においてビットコインを譲渡した場合に課税される可能性があるものは、以下の3つです。

1 PE帰属所得(所得税法161条1項1号)
2 資産の運用・保有により生ずる所得(所得税法161条1項2号)
3 資産の譲渡により生ずる所得(所得税法161条1項3号)

1のPE帰属所得は、非居住者が国内に支店などを設けて事業を行う場合において、その支店などで生じる事業所得を意味します。
ビットコインの投資については、わざわざ国内に支店などを設けて行うことはないと考えられますから、これに該当することはほとんどないと考えられます。
2の資産の運用・保有により生ずる所得については、所得税法施行令280条(国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得)1項に例示があり、この例示の範囲にビットコインは含まれていません。
同様に、3の資産の譲渡により生ずる所得についても、所得税法施行令281条(国内にある資産の譲渡により生ずる所得)1項に例示がありますが、わざわざ投資家が日本に戻ってきて日本の口座で取引するような場合を除いて、この例示の範囲の中に、原則としてビットコインは含まれないと考えられます。

となれば、原則として所得税法では、非居住者が行うビットコインの譲渡に課税はないと考えられます。

 

Ⅳ 国外で譲渡等した場合の課税関係(租税条約の取扱い)

条約は国内法に優先するという原則があります。
このため、国際課税に関する条約(租税条約)が所得税法(国内法)と異なる内容を定めていれば、租税条約が優先されることになります(所得税法162条)。
租税条約は日本と外国の条約であり、締結する条約は国によって異なっています。
このため、非居住者である投資家がどこの国でビットコインの譲渡を行うかによって、その国との租税条約を調べる必要があります。
なお、租税条約を結んでいない国において投資する場合には、上記Ⅳで見た所得税法の取扱いになります。

一例として、シンガポールに移住し、シンガポールでビットコインを譲渡した場合を考えて見ましょう。
日本とシンガポール租税条約において、資産の譲渡による所得については、以下の定めがあります。
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日星租税条約13条(譲渡収益)5項
1から4までに規定する財産(注:不動産、事業用資産、航空機や船舶、一定の株式)以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、 譲渡者が居住者である締約国においてのみ租税を課することができる。
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上記をご覧いただくと、譲渡者が居住者である国、すなわちシンガポールのみでビットコインの譲渡による所得の課税が行われることになります。
このため、日本では免税になると考えられます。

(※)上記の記載については、著者の個人的見解であり、正確性を保証するものではありませんので、本記事のご利用により、利用者及び第三者が被る直接的および間接的な損害について、著者は一切の賠償責任を負いません。

実際の処理につきましては、法令及び公的機関による情報等についてもご参照の上、読者様ご自身の判断と責任のもとに行ってください。
 

プロフィール

税務調査対策専門税理士 元国税調査官・税理士 松嶋 洋税務調査対策専門税理士
元国税調査官・税理士
松嶋 洋氏

平成14年東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。国税局を退官後、経団連関連の税制研究所において、法人税制を中心とするあるべき税制の立案と解釈研究に従事。税務調査対策及び高度税務に関するコンサルティング業務に従事するとともに、税理士向けに税務調査・法令解釈のノウハウにつき講演執筆活動を行う。
現在、税理士の税務調査対応に貢献するため、118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開するとともに、法律論や交渉術に関する無料メルマガを配信中。



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