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社内承継は、なぜ「第一希望」なのに実現しないのか——投資第一号案件にみる中間的承継モデルの設計

前回は、後継者不在の顧問先に示せる選択肢を「経営面」と「財産面」の2つの側面から整理し、親族内承継・リリーフ・MBO/EBO・M&Aという4つのルートに加えて、「第5の道」として持ち切り型の受け皿を挙げました。

役職員に継がせたいが資金の壁でMBOが組めない、借入を背負わせるのは忍びない
——そうした顧問先に残された選択肢です。

ただ前回は、この第5の道を仕組みの説明にとどめました。実際にはどう機能するのか。
今回は、当社が2026年3月に実行した第一号案件を題材に、設計者本人に聞きます。

帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2025年)によれば、日本企業の後継者不在率は50.1%。
中小企業では51.2%、従業員20人以下の小規模企業では57.3%と高止まりしています。
一方でオーナーズが2025年6月に発表した「社内承継に関する調査」では、事業承継を検討する事業オーナーの約半数が社内承継を第一希望に挙げ、他の承継手法を上回りました。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000084898.html

望まれているのに、実現しない。
このギャップは、後継者不在の顧客を抱える金融機関・士業にとって、提案の選択肢が第三者売却や廃業支援に偏りがちな現実として表れています。

2026年3月、オーナーズグループの投資会社・社内承継支援機構株式会社は、札幌の株式会社
ソルトワークスへの投資を第一号案件として実行しました。
リリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000039.000084898.html

資金・体制・移行設計という社内承継の壁に、このスキームはどう向き合ったのか。
設計した当社オーナーズ代表の作田 隆吉に聞きます。

 

スキームの出発点は、売り手オーナーの「二つの声」

――社内承継支援機構のスキームは、どのような問題意識から生まれたのでしょうか。

作田:スキームを設計する過程で多く聞いたのは、一般的なM&Aのスピード感に対する不安でした。
短期間で買い手と接点を持ち、そのまま譲渡へ進む流れの中で、その後会社がどうなるのか見通せず、踏み切れないというオーナーの声が数多くあったのです。

一方で、できることなら社内の人材が引き続き主役として活躍し、社員主体で次世代の経営体制を作ってほしい、という声も多くありました。
この二つの声に応える形を、1〜2年かけて開発してきました。

――「社員に継がせたい」という希望は、なぜ実現しにくいのでしょうか。
作田:これまでは、金融機関が提供するローンを活用したMBOも選択肢としてありました。
ただ、後継者の財務的負担の問題や、承継後の経営体制の問題などで、社内承継を断念するケースも多かったのが実情です。

 

体制整備と後継者選定、外部の目をどう活かすか

――今回の案件では、資金面に加えて体制面の課題もあったと聞きます。
作田:役職員を主役とした次世代の経営体制への移行を進めるにあたっては、経営管理の多くをソルトワークスの鶴尾社長が担ってこられた体制から、役職員が主役となる体制へ移行するには、その機能を組織として分担できる形に広げる必要がありました。
数値に基づいた透明性の高い意思決定を行う環境を整備するため、当社から財務担当取締役(CFO)を含む取締役2名を派遣し、経営管理機能の強化を進めています。
後継者は社内登用する想定のもと、鶴尾社長と連携して人選と育成を進めていく方針です。

――後継者の「選定」に、株主として外部が関わる意味をどう考えていますか。
作田:もちろん、鶴尾社長のご意向や、当社から支援に入っているメンバーの意見を十分に聞きます。
そのうえで、僕自身はできる限り第三者の立場から、率直に感じたことを共有するよう心がけています。

 

永続保有は「売らないこと」自体が目的ではない

――取得した株式を第三者に再売却しない。この設計の狙いは何ですか。
作田:狙いは、承継後の連続性を断ち切らないことにあります。
出口を前提に保有すると、どうしても再売却の時点から逆算した経営判断が入り込み、腰を据えた伴走がしにくくなります。
売らないことを前提に置くからこそ、鶴尾社長にとって安心できる承継を実現できます。
同時に、この会社が長い時間をかけて成長していく形を、当社も同じ目線で追求できます。
永続保有は、「安心できる承継」と「腰を据えた成長」を両立させるための前提だと考えています。

――将来、経営陣が独立を望んだ場合はどうなりますか。
作田:今後案件が増えていけば、役職員が独立して経営したいというケースも出てくると考えています。
その場合に、必ず当社が株式を持ち続けることを前提とするかといえば、まったくそうではありません。

次の世代に無事バトンが渡れば、その経営陣と我々とで、この会社にとって最良の形は何かを継続的に議論していくことになります。
その答えの一つがMBOであれば、否定することはありません。
一方で、MBOという形を取らず、グループとして中立的に最適な形をチームで考え続けるやり方もあり得ます。
制度としてすべてを固めているわけではなく、柔軟に対応していく方針です。

 

機能共有から生産性向上まで、グループとして中小企業を支える

――投資会社がグループとして関わる価値は、どこにあると考えていますか。
作田:我々が投資対象とする規模の会社では、専門人材を一社で抱えきれないことがあります。
財務もその一つです。しかし、グループ内の数社に対してその人材が関与する形であれば、十分に成り立ちます。
こうした機能共有を通じて、中小企業が単独では持てない機能を持てるようになる。
ここに大きな可能性があると考えています。

当社自身も現在、さまざまな業務でAIによる自動化に取り組み始めています。
その知見と活用ノウハウがグループに蓄積されれば、「一人退職したらまた採用する」という発想ではなく、「この業務は自動化できないか」という議論ができるようになります。
これも、もう一つの価値向上のポイントです。

こうした機能共有は、経営者からよく聞く声にも応えるものです。
数字の背景にある事業の実態まで一緒に議論できる相手が、社内にも社外にも足りない——そうした声を多く聞きます。
顧問の先生方が担う税務・会計の領域とは別に、経営管理や資本政策の実務を日常的に回す人材が、この規模の会社では不足しがちです。

――社内承継支援を、より大きな事業構想の中でどう位置づけていますか。
作田:私たちの事業の根底には、大企業に比べて生産性の面で後れを取りがちな中小企業を底上げしたい、という一貫した思いがあります。
社内承継支援も、その延長線上にある取り組みです。
承継を成立させて終わりではなく、承継を入口に、どうすれば社員の給与が上がるのか、もっと稼げるビジネスになるのか、そこまで踏み込んで支援していく。
生産性の底上げと承継支援は、私たちの中では地続きの一つの事業です。

社内承継支援機構は、安定株主として、次世代の経営を担う社員を中長期にわたり伴走支援します。
新しい社内承継の選択肢として、多くのオーナー経営者に知ってもらえればうれしく思います。

編集後記
「社員に継がせたい」という顧客の希望に対して、これまで金融機関・士業が提案できる受け皿は、ローン型MBOか、第三者売却か、廃業支援に限られてきました。
本件が示しているのは、資本の受け皿(永続保有を前提とする株式取得)と経営伴走(取締役派遣による経営管理機能の組織化、次期経営者の共同選定・育成)を一体で設計する、もう一つの選択肢です。

注目すべきは、出口を固定しない設計思想です。
永続保有は「売らないこと」自体を目的とせず、承継を成立させるための資本安定の手段と位置づけられ、将来のMBOも排除されていません。
Exit前提のファンド投資とも一括買取のMBOとも異なる、中間的な承継モデルです。

承継の意思決定において、最初の相談を受けるのは多くの場合、日頃から企業の隣にいる金融機関と士業です。
「社員に継がせたいが、資金と体制がネックで動けない」という顧客に対する提案の地図に、この選択肢を加えておく意味は小さくないはずです。
 

執筆:オーナーズ株式会社(RISONAL)編集部
オーナーズは、売り手オーナーの利益を守るM&Aサービス「RISONAL(リソナル)M&A」、理想の社内承継の実現を支援する「RISONAL(リソナル)社内承継」、承継後の資産運用をサポートする「RISONAL(リソナル)WEALTH」の提供を通じて顧客の理想を追求しています。

これまで大企業やそのオーナーにしか提供されていなかった高いクオリティのサービスを、中小企業に向けて広く展開していきます。
人生の一大イベントである事業承継を悔いのないものにするために、公認会計士や投資銀行出身者、投資ファンド出身者などで構成される当社の専門チームが、事業承継の総合支援パートナーとしてお客様の理想を追求します。
https://risonal.com/

▶ 士業パートナーの詳細はこちら:https://risonal.com/partnership/
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