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なぜ顧問先はM&Aを切り出せないのか——最初の相談相手が握る機会

前回は、後継者不在の顧問先に示せる選択肢を経営面と財産面の2つの側面から整理し、「4+1」の承継ルートとして示しました。
ただし、どれだけ選択肢の地図を持っていても、顧問先がその話題を切り出さなければ、地図を開く機会は訪れません。

当社が2026年4月に実施した調査(事業承継・M&Aの相談先選定に関する実態調査)では、承継の相談先をめぐるオーナー経営者の本音が浮かび上がりました。今回はこの結果をもとに、顧問先が承継を切り出せない理由と、税理士側から水を向けるための実務を整理します。

 

士業は、最も信頼される入口

事業承継・M&Aの相談先との初回接点について、各チャネルをどの程度信頼しやすいかを尋ねた設問では、「信頼できる計」が最も高かったのは「士業からの紹介・提案」で78.9%。次いで「取引金融機関からの紹介・提案」71.1%、「知人経営者・取引先からの紹介」56.7%と続きました。
一方、M&A支援会社からのDM・郵送、営業電話、営業メールは、いずれも「信頼しにくい計」が過半数を占めています。

また、M&A支援会社に対して「信用しにくい」と感じたことがあるオーナーは76.9%。その理由として最も多かったのは「なぜ自社に提案しているのか根拠が弱い」50.0%でした。

承継の入口として最も信頼されているのは、DMでも営業電話でもなく、顧問の士業です。

 

それでも、相談は動いていない

同じ調査で、「相談先の選定が検討停滞の要因になっている」と回答したオーナーは48.0%。
すでに支援会社に相談・面談した層では70.0%、相談先を比較・検討している層では82.3%に達します。
検討が進んでいる層ほど、この傾向は強まります。

最も信頼される入口がありながら、相談は滞留しているのが現状です。このギャップの手前に、「顧問税理士に切り出せない」という段階があります。

 

なぜ切り出せないのか

調査では、M&A支援会社に対する心理を明らかにしていますが、相談をためらう理由の上位は、顧問税理士に対しても同様に働いていると考えられます。

第一に、話が動いてしまう懸念。
ためらう理由の上位には「まだ検討初期なのに、話が進んでしまいそうだから」が挙がっています。
相談を着手と受け取られることへの警戒であり、信頼している相手だからこそ迂闊に切り出せない、という構図です。

第二に、情報が漏れる不安。
承継の検討は、社内にも家族にも伏せているケースが少なくありません。

第三に、相談の筋が違うという遠慮。
顧問契約は税務・会計に対するものであり、承継やM&Aは業
務範囲外という認識から、そもそも聞いてよいことかの判断がつかない場合があります。

第四に、決めていない状態を見せたくないという心理。
売りたいのか続けたいのか自分でも整理できていない段階で相談することは、経営者にとって居心地のよいものではありません。
共通しているのは、不信ではなく、「まだ何も決めていない段階で相談してよいのか分からない」という状態です。

 

「なぜ自社なのか」を示せる立場

ここで調査結果の核心に戻ります。オーナーがM&A支援会社を比較する際に最も重視するのは「自社向け提案の具体性」47.1%で、「会社の知名度」は12.5%にとどまりました。
「話を聞いてみよう」と感じる条件も、1位が「自社の状況を踏まえた、個別の提案がある」42.3%、2位が「なぜ自社
に提案しているのか理由が明示されている」38.5%です。
すでに相談を経験した層では、提案理由の明示を重視する回答が63.3%に上ります。

オーナーが求めているのは、知名度でも一般論でもなく、「なぜ自社なのか」の根拠です。
顧問先の決算書を何期分も見て、株主構成を把握し、経営者保証の状況も知っている。
この条件を満たす相手は、通常、M&A支援会社からの営業電話やDMではなく、顧問税理士に限られます。
オーナーが最も求めている「具体性」を構造的に出しやすい位置にある、ということです。
 

水を向けるための実務

切り出しを待つのではなく、税理士側から水を向ける。
その際、相手の躊躇の中身を踏まえた設計が有効です。

① 決算・申告の場を使う
年に一度、必ず数字を挟んで向き合う機会があります。
別途アポイントを設けると身構えさせますが、決算報告の延長であれば自然です。

② 制度改正の情報提供とセットにする
この手法が実際に機能することは、直近の経緯が示しています。
2024年から2026年にかけては、富裕層課税強化(ミニマムタックスの見直し)をきっかけに承継の検討を始めたオーナーが少なくありませんでした。
当社が2026年3月、今後5年以内の事業承継を検討する中小企業オーナー111名に実施した調査では、半数以上がM&Aの前倒しを意識し、クロージング時期を「2026年内へ早める予定」と答えた層が22.3%、「早めるか検討中」が30.1%に
上りました。(検討理由の3位「税負担への懸念」30.6%は維持)
税制の話題が、承継の意思決定そのものを動かした例といえます。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000084898.html

そして現在、同じ役割を果たしうる論点が動いています。非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価の見直しです。
2026年4月に国税庁の有識者会議が始動し、昭和39年以来およそ60年にわたり維持されてきた評価の骨格が、議論の対象となりました。
自社株の評価は承継の前提そのものであり、オーナー経営者の関心も高く、承継の話に自然につながる話題です。

③ 「売るか否か」を聞かない
意思を尋ねても、決めていない相手は答えられません。代わりに事実を確認します。
後継者候補の有無、株主構成、経営者保証の状況、退任時期の想定。事実確認であれば、意思表明を求めることになりません。

④ 時間軸で聞く
「いつか考えなければ」と思っている相手には、「今すぐか」ではなく「いつ頃を想定されていますか」のほうが答えやすい質問です。

⑤ 情報が動かないことを先に伝える
話を聞いても外部に持ち出すことはないと明示すれば、情報
漏れの不安と、話が勝手に進む警戒の両方に同時に応えられます。

⑥ 選択肢を示し、特定の提案はしない
前回整理した「4+1」のような地図を示し、判断は相手に委ねる。
この段階で特定の手法や支援会社を勧めると、オーナーが警戒しているDM・営業電話と同じ構図になります。

 

切り出された後に必要なこと

相談が始まったとき、次の課題は「どこに相談すればよいか」です。
調査では、相談先選びで分かりにくい点として「料金体系の違い」34.6%が最多となり、「なぜ自社に提案しているのかの根拠」「FAと仲介それぞれのメリット・デメリットの違い」「FAか仲介かなど、支援会社の立場の違い」が続きました。
相談先を比較・検討している層では、料金体系を挙げる回答が64.7%に上ります。

オーナーはこの違いを判別できていないことがあります。
紹介する側がこの構造を理解しているかどうかは、顧問先の交渉条件に直結します。仲介とFAの構造的な違いについては、次回改めて扱います。

 

おわりに

承継の相談は、最も信頼される相手のところで止まってしまうケースがあります。
信頼されていないからではなく、切り出す機会がない可能性があります。
最初の相談相手が持つ機会は、承継の話題を「相談してよいこと」に変えられる点にあります。

調査概要①:「事業承継・M&Aの相談先選定に関する実態調査」/調査機関:Fastask/調査対象:事業承継・M&Aを検討したことがある、
または今後検討可能性がある中小企業のオーナー経営者/調査方法:Webアンケート/調査期間:2026年4月16日〜21日/有効回答数:104(オーナーズ調べ)。設問により母数が異なります。調査概要②:「富裕層課税強化(ミニマムタックス見直し)が事業承継M&Aの
意思決定に与える影響に関する調査」/調査対象:今後5年以内に事業承継を検討している中小企業オーナー/有効回答数:111(オーナーズ調べ)。
※非上場株式の相続税評価に関する記述は、国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の公表資料に基づく本稿執筆時点の状況です。議論は継続中であり、今後変わる可能性があります。



執筆:オーナーズ株式会社(RISONAL)
売り手専属のFAとして事業承継M&Aを支援するほか、持ち切り型の受け皿による社内承継支援、承
継後の資産運用までを一気通貫で手がけています。顧問先の承継を税理士・士業と共同で支援する
パートナーを募集しています。
▶ 士業パートナーの詳細はこちら:https://risonal.com/partnership/