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お寺の役割を再構築し 新たな形で人々に寄り添う 記事



時代の変化とともに檀家制度が崩壊し、お寺と人々の〝つながり〞が薄れてきています。仏事の収入だけではお寺が存続できず、別に仕事を持つ僧侶も増えているといいます。厳しい状況の中でお寺の役割を果たすために、革新的な取り組みを始めた築地本願寺。
宗務長を務める安永雄玄氏に、変革を進めた経緯や今後の展望について聞きました。


 

希薄になった〝つながり〞を今、再構築するとき

仏様の教えを通して、「自他共に心豊かに生きることのできる社会の実現に貢献する」という理念のもと、2017年11月から
本格始動した『「寺と」プロジェクト』。私はこのプロジェクトを、2014年に企画しました。

実は、仏教的なものの見方、生き方、考え方には普遍性があります。何かと悩みの種が多い現代ですから、仏様の教えを色々な形で伝えることで、一人ひとりが生きやすい社会をつくりたいと思っていました。

そんな私の想いを形にするためにも、「まずは〝ご縁づくり〞を進めよう」と考えました。そこで、希薄になったお寺と人々との〝つながり〞を再構築するために、4つの事業を立ち上げました。

1つ目は『寺とくらし』、2つ目は『寺と学び』、3つ目は『寺とカフェ』、4つ目は『寺とお墓』です。事業の内容はそれぞれ違いますが、「かつてお寺が地域コミュニティーの中心的存在であった役割を再構築し、人々の人生や暮らしに寄り添う」というコンセプトの上に成り立っています。
 

〝開かれたお寺〟としてより多くの人に親しまれる存在に
『「寺と」プロジェクト』の取り組み


地域コミュニティーの中心としてのお寺の役割を取り戻し、
暮らしの拠り所として存続するための取り組みを紹介。




 
 

新たなお寺のあり方『寺とプロジェクト』を始動

私は長い間、銀行に勤めていました。退職後、浄土真宗本願寺派の通信教育で仏教を3年間学び、得度して僧侶になったんです。そうしてご縁があって、都内のお寺の副住職になりました。

当時、「民間企業から僧侶に転身した変わった人がいる」と噂になっていたそうです。そして次第に、全国で経営改革について講演を頼まれるようになり、活動を続けたところ、築地本願寺のいわば社外取締役的な委員に任命されました。この頃、築地本願寺の会議では、お寺全体の現状や課題について、度々議論していました。

江戸幕府の政策に端を発した檀家制度は、都市への人口流入とともに崩壊していきました。かたや都会に出てきた人のほとんどは、お寺とのつながりを持っていません。さらに、昨今は葬式も、僧侶を呼ばない簡素なものが増えてきています。このように、かつて〝暮らしの拠り所〞であったお寺の存在感が薄れてきています。

築地本願寺も決して例外ではなく、強い危機感を抱いていました。そこで、全国のお寺の先駆けとして、仏様の普遍的な教えを広めて一人ひとりが生きやすい社会をつくるために『「寺と」プロジェクト』の原案を提出したんです。それが受理されて動き出したのが、2014年の冬でした。

 

親しみやすい内容の講座でお寺に人を集める

実は、『「寺と」プロジェクト』が本格始動する前から、築地本願寺では講演会を開いてきました。人気講師が登壇するときは満堂になりますが、普段はそこそこ。「お寺の中で待っていてもなかなか人は来ない。じゃあ外に出ていこう!」という発想から、2016年5月に『築地本願寺GINZAサロン』をオープンしました。

サロンでの取り組みは主に2つあります。1つ目は『KOKOROアカデミー』。仏教だけでなく落語やヨガなど、親しみやすい内容でセミナーを開いています。また、〝面白いかどうか〞も、内容を決めるための重要な基準です。地域のつながりを重んじ、地元の関係者から講師をお招きすることもあります。2つ目は『よろず僧談』。名前の通り、僧侶が一般の人の個別相談を受ける会です。中には仕事や家庭についての込み入った相談もありますが、僧侶が持ち前の傾聴力を活かし、聞くことで解決に導いています。これらの取り組みは今までに、述べ1万5000人にご利用いただきました。

浄土真宗の根本にある、〝御同朋〞という考え方。僧侶と一般の人が共に学ぶサロンは、その実現にも寄与していると感じます。

 

利便性を高めるため〝バーチャルテンプル〞を構築

『「寺と」プロジェクト』が本格的に始動したのは、2017年11月。境内をリニューアルし、カフェやブックセンター、オフィシャルショップを立ち上げました。その結果、2017年9月時点で1日あたり4000人ほどだった来院者数が、2018年3月の時点で多いときには8000人になりました。より多くの人が、気軽に足を運べるようなお寺になったと実感しています。


同時に、合同墓を新設しました。都心への人口流入に伴い、〝先祖代々のお墓を守る〞という意識も薄れてきています。「それなら近くて便利なところに、お墓があった方が良い」という考えのもとでつくりました。

加えて、これからは〝バーチャルテンプル〞が有力になると考え、電話などの窓口『コンタクトセンター』を用意しました。単なる仮想現実上のお寺ではなく、リアルなお寺は築地にあって、一方でスマートフォンやパソコンを通しても、仏教やお寺
とつながっていける。時間や距離が今まで以上に縮まって、時代に合った形になると思うんです。〝バーチャルテンプル〞を実現する第一歩としての『人生サポート』では、法律や相続の相談に対して、提携している弁護士や行政書士などの専門家を紹介します。士業の先生方との関係は、今後も強化していきたいですね。

これからは時代に合った形でお寺の役割を果たすことで、ご縁をつないでいくべきだと考えています。まずは仏教やお寺に触れる機会をつくり、その中でご縁を深めていただけたら嬉しいですね。

どのように心豊かに生きてゆくか、共に学ぶ場を提供
『築地本願寺GINZAサロン』での取り組み


2016年5月、銀座駅のほど近くに開設したサテライトテンプル。
『KOKOROアカデミー』と『よろず僧談』は主にこちらで開催している。




 

これからはお寺も価値を創造する時代へ

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プロフィール

安永雄玄氏

築地本願寺 代表役員/宗務長

慶応義塾大学経済学部卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。21年間勤務し、現場の法人営業から国際業務戦略の立案まで、広範にわたる業務を経験する。現在は、築地本願寺の宗務長として職務をまっとうしつつ、グロービス経営大学院の教授としても活躍中。


築地本願寺
浄土真宗本願寺派の直轄寺院。本山は、京都・西本願寺。本堂などが重要文化財に指定されている。
■ 創建:1617年
■ 所在地:東京都中央区築地3-15-1