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  • 法律の分野でも進む「〜テック」

    最近、新聞やニュースなどで見ない日がない言葉の一つに、「~テック」という言葉があります。これは、ICT技術の急速な進展に伴い、それまでICTと距離のあった分野に、ICT技術を用いて時間やコスト、そして仕事そのものを省略化する技術のことを言います。現在、最も世間で注目されているのは、ブロックチェーン技術に代表されるようなフィンテック(FinTech)ではないでしょうか。一時期は名前を聞かない日がなかった、コインチェック株式会社も、日本におけるフィンテック分野の代表的な企業です。一方で、筆者および士業の皆様に身近な法律の分野でも、ICT技術を使って、裁判、行政、契約などの従来業務の省略化や、士業や企業法務に向けたサービスを提供するリーガルテック(LegalTech)が進展しておりますので、今回はその動向を紹介したいと思います。 日本の法律業務の現状リーガルテックの説明の前に、現在の一般的な法律業務の説明をします。裁判などの法律業務では、膨大な量の証拠を印刷した書面の形式でやりとりをしており、その中から適切な証拠を見つけ出すだけでも一苦労な状況です。 よくある離婚訴訟 ~膨大な書面資料が手間になる~例として、夫の不貞を原因とした離婚訴訟を考えてみましょう。不貞の証拠として妻があげるものには、LINEなどのSNSの履歴のスクリーンショットや、メール、写真などがあります。また、妻の考えなどをまとめた陳述書も証拠となります。さらには代理人弁護士が作成した書面などがあり、これらは全て、印刷した書面という形で裁判所および相手方に提供しなければいけません。半年以上続く訴訟手続きの中で、証拠の数は膨大なものになり、100を超える場合もあります。その中から提示したい証拠を見つけ出すのも難しい状態になりますし、裁判期日に、代理人弁護士の所属事務所から裁判所まで持参すること自体も一苦労です。また、そのような書面を裁判所へ提出する方法も、特に訴えを提起する段階では、直接裁判所に(もちろん平日の9時から17時の間に)持参するしか方法がなく、その際も訴状と膨大な証拠を複数の部数印刷をして持参する必要があります。 リーガルテックの出現で大幅な工数削減に一方で、リーガルテックとは、法律(リーガル)と技術(テクノロジー)を組み合わせた用語で、法律業務を支援するテクノロジーを総称します。リーガルテックが発展してきた原因は、いうまでもなく、IT技術の進化により、あらゆるデータがデジタル化して来たことです。先ほどの離婚訴訟で証拠として挙げられていたパソコンやスマートフォンでやりとりされる情報である、メール、チャット、Word、PowerPointやPDFなどの文書ファイルは、全てデジタルデータとして蓄積されます。これらのやりとりを、紙を使わずにやりとりできる技術、これもまさにリーガルテックです。 アメリカのリーガルテックの状況他の「~テック」の領域でもそうなのですが、リーガルテック分野でも、最も先進的なのはアメリカと言えるでしょう。すでに2006年には、民事訴訟における電子情報開示制度(一般的に「e-discovery」と呼ばれています)が整備されました。これは、民事訴訟における証拠開示(裁判所および訴訟の相手方への証拠を提出すること)を、電子的手続きによって行うことを意味します。対象となるのは、メールやインスタントメッセージを含むチャット、Word、PowerPointやPDFなどの文書、CADやCAMのファイル、ウェブサイトなど、全ての電子的に保存された情報であって訴訟の証拠になりうるものです。これらは先ほど挙げた離婚訴訟におけるほぼ全ての証拠が該当します。これらの証拠は、電子的に記録され、デジタルデータとして裁判所および相手方当事者に提出されるため、紙で印刷する必要はありません。また、データとして扱えることの特徴として、分類や整理、検索といった作業が非常に容易に可能です。アメリカの民事訴訟手続きのうち、当事者双方の証拠開示は、インターネット上で行われます。E-discoveryと呼ばれるこの手続きは、日系企業もアメリカで訴訟を抱えることが増え、一般的にも知られるようになりました。また、契約書の締結においても、日本よりも数年先んじて、ペーパーレスが進展しています。通常の契約書締結過程では、少なくとも契約書への捺印の時点で、契約書を印刷し、実際に捺印するという作業が発生します。また、社内フローとして、捺印のチェックを、印刷した紙を閲覧する形で行っている会社もまだ多くあります。このような一連の作業をすべてWeb上で完結するサービスが多く展開されています。 日本の行政手続き・司法手続きの電子化日本における行政手続き、司法手続きにおいても、電子化が進められています。これらも、特に司法手続きに関しては、リーガルテックの試みと言えます。行政手続きでは、総務省行政管理局が運営する総合的な行政情報ポータルサイトである電子政府の総合窓口(e-Gov)が、省庁横断的な電子化の取り組みとして注目されます。例えば、健康保険や厚生年金保険、雇用保険や育児休業給付金などに関する諸手続きを行う場合、申請者はe-Gov 電子申請に対応したソフトを利用して、申請データを作成し、必要に応じて電子署名も行います。その上で、一括申請システムを利用すると、全データが圧縮されたZIP形式で一括送信し、申請が可能です。そのほかにも、国税電子申告・納税システム(e-Tax)や地方税ポータルシステム(eLTAX)など、税務分野でも電子化が進んでいます。しかし、これらのインターネット上での電子上の手続きには、Windowsでしか利用できなかったり、利用時間が平日に限られていたりと、使い勝手に大きな問題があります。特に、e-Govについては利用率が1割に満たないなど、普及の点でも大いに問題があります。また、「未来投資戦略2017」(平成29年6月9日閣議決定)に基づいて、裁判手続等のIT化検討会が開催され、2018年3月30日に、「3つのe」の実現を骨子とするまとめが発表されました。「3つのe」とは、民事訴訟手続における① 提出(e-Filing)② e法廷(e-Court)③ e事件管理(e-Case Management)を指します。①e提出(e-Filing)は、アメリカにおけるe-discoveryの実現のみならず、裁判所に紙媒体で提出することが必要だった訴状についても24時間365日提訴を可能とすることを目指しています。電子的に提訴された裁判を、テレビ会議もしくはウェブ会議形式で行うことを内容とするのが②e法廷(e-Court)であり、その事件の進捗管理および証拠管理を行うのが③e事件管理(e-Case Management)です。これらが実現すれば、かなりの影響が出ると思われますが、残念ながら実現の時期・目処はこれからですので、まだしばらくアナログな時代が続くと思われます。 日本で進む、ベンチャー企業のリーガルテック行政・司法の状況と比較し、進んでいると思われるのが、主にベンチャー企業に主導されるリーガルテックです。先に述べたe-discoveryへの対応や、スマートフォンやパソコンに記録されたデジタルデータを復元するデジタルフォレンジック技術がまず発展しました。しかし、本記事執筆時の2018年6月現在において最も注目されているのは、知的財産・特許の出願や管理関係と、契約書の作成・管理関係と言えます。 特許まわりと契約書の作成・管理に着目した「弁護士ドットコム」前者については、特許庁のデータをAIが分析し、審査官の判断を学習することで、そのアイデアの特許出願が可能かどうかのシステム構築を進めている企業もあります。後者について、現在日本国内で最もシェアを得ているのが、弁護士ドットコムが運営する「クラウドサイン」と言うサービスです。これは、契約締結時に必要な「紙と印鑑」を「クラウド」に置き換え、契約締結作業をパソコンだけで完結させるものです。さらに、契約書締結自体がクラウド上で、ペーパーレスで行われるため、印紙税が課税されません。さらに、クラウドサインで合意締結されたすべての書類には、クラウドサインのみが発行可能な電子署名が付与されますので、それにより真正な書面かどうかを判別することができます。ちなみに、電子署名の仕組みには、強固な暗号化方式によって守られている公開鍵暗号方式に基づくデジタル署名を採用しているそうで、この署名方法のみならず、契約書のやり取りにおいても安全性に配慮されているとのことです。 クラウドサインの導入は2万社を超えるクラウドサインのサービスは、インターネットに接続できるパソコンがあればすぐにでも導入できるため、非常に手軽であり、導入企業も既に2万社を超えています。企業内で契約書に関連する業務を一手に担っていた経験からすると、完全なペーパーレス、印紙税非課税、収納場所不要、というのは、かなり大きな魅力です。 他社サービスとの連携体制も充実また、他に注目されるべきポイントは、他社・他業種との連携です。管理系システムを新たに導入する企業にとっての障壁で最もよく見られるものは、既存システムとの統合可能性ではないでしょうか。クラウドサインは、業務管理系アプリケーション最大手のsalesforceやサイボウズとのAPI連携を実現しているため、そのような障壁を超えることができました。導入により、契約締結についての社内りん議と締結後の文書管理を既存システムで行い、その間の契約締結作業をクラウドサインで行うことが可能です。 他業種との連携例 ~株式会社 LIFULLの例~他業種との連携において最も注目されるのは、不動産情報サイトを提供する株式会社 LIFULLとの提携です。2017 年 10 月から、これまで対面が原則とされていた不動産契約における重要事項説明について、賃貸分野ではオンラインでの実施(IT 重説)が解禁されるなど、ICT を活用した業務効率化の動きが出てきています。両社は、賃貸不動産の選択・ウェブカメラ等による内見・IT重説・契約締結の全てをオンラインで行える不動産会社向けの電子契約プラットフォーム構築を目指して、業務提携しました。自宅にいながら不動産が借りられる時代が、もうすぐそこまで来ています。 まとめまだまだ始まったばかりの日本におけるリーガルテックですが主に民間主導でますます進展していくと考えられます。それとともに、従来士業の仕事と思われていた業務も、そう言ったリーガルテック企業のサービスにますます代替されていくことが当然予想されます。旧態依然としたところが多い法律業界に大きな風穴を開け、利用者への利便性がより向上することは歓迎されるべきです。同時に、士業にとってはますますチャレンジングな時代になったと言えます。  2018.07.13
  • 進むフリーランス化と表面化する子育て問題

    働き方改革が進む中、今まで以上にフリーランス人口も増えてきています。エンジニアを中心としたフリーランスを、業務委託という形式で仲介する、ランサーズ株式会社は、2018年4月4日に4度目となる『フリーランス実態調査』を公開しました(https://www.lancers.co.jp/news/pr/14679/)。同調査では、日本における副業・兼業を含む業務委託で仕事をする人を「広義のフリーランス」と定義し、広義のフリーランスの経済規模が初の推計20兆円を超えたこと、同人口が全体の労働人口に占める割合は17%と横ばいであるが、副業(本業・副業を区別していない労働者を含む)フリーランス人口は744万人、経済規模は7兆8,280億円となり、堅調に増加していることが確認されました。筆者の肌感覚ではありますが、こうしたフリーランスの増加の中で、男性はもちろんのことながら、それまでフルタイムで働いていた女性が、子育てのタイミングで退職し、そのあとフリーランスになる、もしくは結婚などを契機にフリーランスになるといった、“女性のフリーランス化”が、男性よりも一層進んでいるように感じます。 フリーランスへの子育て事情の現状会社員とフリーランスとの大きな違いの一つとして、会社員などの被雇用者には認められる、産前産後休業制度と育児休業制度がないことが挙げられます。これらの制度は、直接的には女性の出産・育児に関連するものですが、共働きが一般的になった現代においては、女性をパートナーとする男性にとっても、共に家計を支える女性の収入は大きな関心事であると思います。また、上述の制度がないだけでなく、被雇用者には適用される、産前産後から育児休業中の社会保障料の免除も認められていません。収入がないだけでなく、さらに持ち出しが発生するという状況です。それに追い打ちをかけるように、子どもを保育園に預けようと思った際に重要になる、いわゆる『点数』もフリーランスだと低くなってしまう自治体が多いそうです。被雇用者として育児休業を取得している場合には、『就労』中として扱われるために、『育休明け加点』がされるのに比較し、そのような制度を享受できないフリーランスの場合は、『業務実績がない』として、加点がつかないために、保育園への入園申請時に被雇用者に比べると不利になり、認可保育園よりは高額な無認可施設やベビーシッターを利用したり、無理に長時間の稼働を増やしてしまって母子の健康を害するケースも多いようです。このような制度により課題面の、主に経済的な理由で、フリーランス(および経営者)の6割が、産後2ヶ月以内に仕事復帰をしている現状があります。 士業の場合の子育て事情(女性弁護士の場合)士業も、法人化している場合があったとしても、実質はフリーランス的な働きをしている方が多いのではないでしょうか。筆者の最も身近な弁護士の女性も、特に共同経営の事務所に勤務している場合に、一般的なフリーランスの方々と同様の問題に直面しています。筆者が実際に見聞きした話でも、妊娠が発覚したことによる内定取り消しや、自営ゆえに、出産後ベッドの上で仕事を再開した女性弁護士など、信じられないような実話が多くあります。 一部の単位会(弁護士は、日本弁護士連合会という全国組織に加え、原則的に都道府県単位で存在する、単位会と呼ばれる弁護士会に所属することが義務付けられています)では、出産時およびその後の育児期に関して、弁護士会費の免除制度を設けています。しかし、自営業者である弁護士の場合、かかる費用は弁護士会費の他に、事務所の維持費などもかさむため、単に会費を免除するというようなものではなく、全国的な制度として、被雇用者の場合と同程度の産前産後の休業制度を設けるべきであると思われます。 今後の動き今後もフリーランスは増加傾向ロボットやAIに代表される科学技術の一層の進歩によって、これまで人間がやっていた作業も機械に代替されるようになり、人間が行うのは、機械ではできないような仕事に限られてくる。これは多くの人が感じていることだと思います。しかし、「機械に代替できない仕事」が出来る人材を育成するのは容易ではありませんし、少子高齢化も進展する我が国ではそもそも人材の獲得自体も難しい状況と言えます。そのような企業ニーズを満たすのが、フリーランスに代表されるような外部リソースの活用です。そのため、専門性や独創性を持ったフリーランスの需要は今後も増えることはあっても、減ることはないと思われます。一方で、労働する側にとっても、第1子出産時における母親の平均年齢の上昇により、子育てと介護を同時に行ったりと、より時間に融通がきく働き方を求める人が増え、それを可能にするようなICT技術(ビデオ会議やスケジュール、データの共有ツール等)も提供されるようになってきました。2018年は副業元年とも言われますが、今後もフリーランスとしての働き方を求める人はますます増えていくことでしょう。このような流れは何も日本だけではありません。アメリカでは、労働人口の35パーセントがフリーランスであるという調査結果もあります(https://www.upwork.com/i/freelancing-in-america/2016/)。また、EUでも、フリーランス人口は急増しており、数年前からは、日本からの移住先としてドイツやオランダなどが注目されています。以上のように、国内だけでなく世界的にフリーランスという働き方は増加しており、それに合わせた制度構築も求められているようです。 日本でのフリーランスの子育てを巡る動きフリーランスおよび法人経営者の女性らで作られた「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」は厚生労働省宛に、上記で論じたような課題を解決する方法として、下記の4点を内容とする要望書と1万人を超える署名を2018年6月6日に提出しました。 雇用者の産前産後休業期間と同等の一定期間中は、社会保険料を免除すること 出産手当金(出産に伴う休業期間中の所得補償)は、国民健康保険で任意給付となっているが、一定以上の保険料を納付している女性には支給すること 雇用者と同等かそれ以上の労働時間であれば、保育園の利用調整においてどの自治体においても被雇用者と同等の扱いをすること 認可保育園の利用料を超える分は、国や自治体の補助が受けられるか、ベビーシッター代を必要経費もしくは税控除の対象とすることこの署名活動は「change.org」というクラウドファンディングを通して行われたこと、また60を超える団体・個人が呼びかけ人となっていたことからも、この問題への社会的な関心の高さが伺えます。実際に、4つの要望が「セーフティネット」として実装されるかどうかはまだ不透明ではありますが、今後もフリーランスが増えること、またそのような女性への支援をしないことは、今後より一層の少子化を招くことが明らかであることからすると、情勢としては、要望にあった内容が実現されていく流れになると思われます。 士業に求められること・できることフリーランスの子育てにおいて、まさに士業の女性も当事者であるのですが、一般的なフリーランスに比べ、できること、求められることがあると考えます。 (1)士業にできること「フリーランス」という言葉が一般化する前から、士業の女性は、自営業的な働き方をしてきました。新しい働き方と言われるフリーランスに対しても、これまでの経験を共有することができると思われます。弁護士の先輩の中には、「産休なんて取らなかったわよ」と豪語される方々もいらっしゃいますが、そこまでの強硬さはなくとも、家庭生活との両立を実現されている方々のノウハウがもっと活用されるべきであると考えます。実際に、「ママ士業の会」(http://mamashigyo.office-kanae.link/)として、士業の相互支援を通じて、子育てと専門職を両立させることを目指す団体も出てきています。今後は、このような動きを、士業の枠を超えて広げていくことで、よりフリーランス全体への寄与が可能となることが期待されます。 (2)士業に求められること士業として求められることの最大の点は、フリーランスとして働く女性の地位向上のために助力をすることだと思われます。弁護士だけでなく、行政書士や司法書士の方々であれば、フリーランスの女性がクライアントと契約を締結する際に、不利な条件にならないような方策をアドバイスできるはずですし、法制度の改正についても、業界を通じて声を上げることが出来ると考えられます。税理士の方々であれば、他の士業よりも、確定申告などで、よりフリーランスの女性との接点が多いと思われます。その際に、財務面で利用できる制度などがあれば積極的に利用し、持続可能な働き方をサポートしていくことが求められていると考えます。 まとめ以上のように、フリーランスの女性の子育て事情と、その中での士業の関わり方を見てきました。すでに述べたことではありますが、士業の女性は、フリーランス女性の先駆け的存在です。今後、より一層社会が大きく変わっていく中で、この分野でのオピニオンリーダーとしての活躍が求められているのではないでしょうか。  2018.07.06