2023.09.25
インボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応に関するお知らせ

2023年10月01日(日)より、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されますので、弊社の同制度への対応についてお知せいたします。

弊社ではインボイス制度の対象となる課税取引のご利用について、
2023 年10月以降の決済分より、同制度の要件に対応できるようにいたします。

【当行適格請求書発行事業者登録番号のご案内】
株式会社アックスコンサルティングの登録番号をご案内いたします。

適格請求書発行事業者登録番号
T9011001004344
 

激変する経済状況下で顧問先企業の資産を守るための分散投資と税務(個人編)

激変する経済状況下で顧問先企業の資産を守るための分散投資と税務(個人編)

日本経済の回復に向けて動き出した2022年。
しかし、ウクライナ情勢の悪化や円安進行による物価上昇が強まったことで、
実質的な賃金上昇と消費回復の兆しは見えてきていません。
この状態が継続すると、中小企業や個人にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
激変する経済状況下で、士業が顧問先企業の資産を守るために必要な視点について、
日本公認会計士協会租税政策検討専門委員会副専門委員長を務める峯岸秀幸氏が、
個人の資産を守るための分散投資と税務について解説します。

法人編はコチラ



 

円安・物価高で高まる資産の組み替えニーズ

2022年に入り、近年稀にみる円安と物価高が進行しています。
以前の記事でも触れた通り、円安は円建て資産の価値を目減りさせ、
物価高は今後の日本の景気の見通しに暗い影を落としつつあります。
顧問先の資産防衛は、士業にとって最重要課題の一つといえるでしょう。

その方策の一つとして、為替リスクや資産価格の変動リスクを回避するため、
円建て資産、特に円建て預金を金融商品や不動産など、
他の種類の資産に組み替えることが考えられます。
前回、法人が保有する資産の種類を組み替える際に
注意すべき税務上のポイントを簡単に整理しましたが、
今回は同じことを個人について試みますので、
顧問先への提案を練る際の材料にしていただければ幸いです。


 

個人が保有する資産別の課税関係

円建て預金を他の種類の資産に組み替える際に考慮すべき課税関係ですが、
まず、組み替え後の資産の(1)売却益(2)利回りについて所得税が課されます。
また、資産の保有者が変わるに際して相続税・贈与税が課され、
更に、一定の場合には消費税の課税関係に注意を払わなければならないこともあります。
これらを資産の種類別に概観すると以下のようになります。

 

(1)外貨建て預金

円建て預金を外貨建て預金に変える場合、基本的には、それを円転したり、
他の種類の通貨や資産に変える場合にのみ、
外貨建て預金の取得時点から円転等の時点までの
為替決済差益が雑所得となり所得税が課されます。
この雑所得と他の種類の所得の損益通算はできず、
また総合課税ですので所得が上がれば上がるほど税率も高くなります。
しかし、法人の場合と大きく異なるのは、
外貨建て預金のまま保有し続けるのみであれば、
毎年の為替換算差益への課税がないということです。
この点、法人の場合には、基本的に毎事業年度末に為替換算差益への課税があるため、
円安進行局面での外貨建て預金の保有には、
資金的裏付けのない利益への課税という問題が発生します。
ですが、個人の場合にはその問題が生じないため、
相違を意識注意しておくといいでしょう。

 

(2)金融商品

円建て預金の価値目減りのリスクを回避するために、
金融商品に組み替えることには、法人の場合、
期末の評価益課税を免れ得るという意味で外貨建て預金よりも優れていました。
個人の場合、それとは違った大きなメリットが存在します。
それは何といっても、上場株式等の売却益や配当に対しては、
どれだけ金額が大きくなろうと分離課税で20.315%(住民税込)の
税率でしか所得税が課されない
ことです。
これは、個人の他の種類の所得を圧する金融所得の最大の優位性ですが、
同時に、資産格差を押し広げる要因の1つになっていると指摘されることがあります。
日本の所得税が超過累進税率を採用していることからも、
本来、高所得者の税負担率は、所得が上がれば上がるほど高くなり、
あるところで高止まりするはずです。
しかし実際には、所得1億円をピークに所得が高くなるほど
税負担率が逓減するという事実が知られており、
金融所得の優位性がその原因になっているとの分析があります。

こういった問題意識が、岸田政権下で燻り続ける金融所得課税改革の議論の根底にあります。
そのため、これまで所得税負担率が逓減していた所得1億円以上の層をターゲットにして、
金融所得に対する所得税率を引き上げる改正が今後有り得るということは
念頭に置いておいた方がいいでしょう。

 

(3)金

円建て預金を金に組み替える場合、課税関係は法人の場合よりもやや複雑です。
基本的に、金を売った際の売却益は譲渡所得となり、
総合課税の対象となって累進税率が適用されることから、
金融所得の場合と比べて税率が高くなることが十分あり得ます。
もっとも、譲渡所得には50万円の特別控除があったり、
5年超保有したものを売却した場合には
長期譲渡所得となり所得金額の2分の1だけが課税の対象になるなど、
金融所得にはないメリットもあります。
つまり、金を買うか、金融商品を買うかについて、税務上の有利不利の判断は、
購入額の規模感や想定される売買頻度に依存するといえます。
なお、金に分散投資したいけれど、現物を買った場合の税負担が重くなると想定される場合、
金ETFに投資することで分散投資の効果を享受しつつ、
上記(2)と同様の課税を受けるという方法をとることも可能です。

 

(4)不動産

保有資産の組み替えを目的に不動産を購入するのであれば、
多くの場合にその不動産は賃貸の用に供することになると思われます。
賃貸用不動産への投資で得る賃料収入から必要経費を差し引いた残額は、
不動産所得となり所得税が課されます。
総合課税であり所得金額が大きくなるにつれて税率も上がりますが、
不動産所得から生じた損失は、一部の例外を除いて他の種類の所得と損益通算が可能です。
この例外において特に注意すべきは、国外中古建物の不動産所得の計算上生じた損失については、
損益通算に一定の制限がかかることです。

将来、この不動産を売却した場合の売却益は分離課税の譲渡所得で、
税率は、短期(保有5年以内)39.63%(住民税込)、
長期(保有5年超)20.315%(住民税込)となるのはおなじみです。
消費税についていえば、居住用の建物の賃料は非課税で、
そうではない商業用等の建物の賃料は課税であるという差異があり、
そこで、商業用の建物を購入する場合には、
その後、消費税の課税事業者になる可能性があること、
購入段階で消費税の仕入税額控除を受けるための手続を忘れずに実行するなど、
必ず気を付けるべきことがあります。

ところで、不動産への組み替えに際しては、金融機関から借り入れを起こすのが一般的です。
自己資金に金融機関からの借入を加え、より高額の物件を取得することで、
レバレッジ効果によって収益を大きくできる
点は、
他の種類の資産には見出しがたい不動産投資の特徴であろうと思われます。
しかし、時と場合によっては、この特徴が仇になることを、
不動産が持つ相続税の節税効果と合わせて簡単に述べておきたいと思います。


 

今後の不動産投資に影響必至、令和4年4月19日の最高裁判決

相続税は、相続人等が相続等により取得した財産の相続開始時等の
時価を課税価格として課される税金です。
この時価は、具体的には不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に
通常成立すると認められる価額のことをいうと解されています。
しかし、実務的には、国税庁が公表する財産評価基本通達に基づいて
画一的に計算することになるのがほとんどです。
財産評価基本通達は資産の種類ごとにその評価方法を定めていますが、
先に述べた外貨建て預金、金融商品及び金についていうと、
一部で幅のある計算が認められるものの、基本的には、
相続開始等の時点の市場価格に基づいて評価額が計算されることになります。

しかし不動産はそうではなく、土地は、公示価格の約8割程度の水準で
国税庁が定めて公表する路線価等により、
建物は固定資産税評価額によって、それぞれ評価額が計算されることになっています。
不動産価格が高騰傾向にあった近年、
この路線価や固定資産税評価額による評価額と市場での実勢価格が
これまで以上に著しく乖離している事実が知られてきました。
この乖離は、預金に借入を加えて不動産を取得すると、
その瞬間に相続税の課税価格を大きく圧縮する効果を生んでしまいます。
その圧縮効果を狙った不動産投資について、
財産評価基本通達が定める路線価による評価額を、
国自らが否定して市場価格に引き直して相続税を課税することを認める最高裁判決が、
4月19日に出て、税理士・不動産両業界を騒然とさせたことはご存知の方も多いでしょう。


この事件の事実関係は以下のようなものでした
  • 90歳の資産家が2件の収益不動産を14億円で買ったが、そのうち10億円を銀行からの借入で賄った。この借入に係る銀行の貸出稟議書には「相続対策」「相続税対策」のための不動産購入である旨が記されていた。
  • その資産家は94歳で亡くなり、その相続人は2件の不動産のうちの1件を相続税の申告期限よりも前に5億円で売却した。
  • 2件の不動産の通達評価額は2億円と計算され、その結果、資産家の相続税の課税価格は2,000万円と計算されたが、2件の不動産の購入とこれに伴う借入がなければ6億円であるはずだった。
  • 所轄税務署長は、2件の不動産について不動産鑑定評価額13億円を前提とする課税処分を行い、その結果、課税価格9億円、相続税額2.5億円となった。
 

「相続税対策」を前面に出す危険~この最高裁判決のロジックと得られる教訓

最高裁は、以下のようなロジックで、国がした課税処分を全面的に認めました。
  • 2件の借入と不動産購入は、近い将来発生することが予想される相続において相続税の負担を減らすものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて企画実行したものである。
  • 通達評価額を上回る価額を採用した課税処分でも、その価額が時価を上回らなければ適法だが、特定の者に対してのみそのような課税処分を行うのは、合理的な理由がない限り、租税平等原則に違反して違法である。
  • 通達による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合、その合理的な理由がある。
  • 2件の不動産について通達による画一的な評価を行うことは、本件のような借入と不動産購入という行為をしない/できない他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせ、租税負担の公平に反するというべき事情があるから、課税処分は適法である。

本判決により、今後、
(1)借入して不動産を購入すること
(2)それが節税を意図したものであること
(3)不動産購入の時点で近い将来に相続の発生が予想されること

平たくいうと、不動産の購入者が高齢であったり病気であったりすること
という条件を満たすと、財産評価基本通達の評価方法で計算した評価額が否認され、
不動産鑑定評価額により課税処分される可能性があることが明らかになったと考えられます。
資産の組み替えにあたって借入することによるレバレッジ効果が魅力であるはずの不動産投資ですが、
一方で、借入を起こすことが不動産投資に付随するはずの
相続税の課税価格の圧縮効果に対して不利に働かないよう、
節税を前面に出すようなアドバイスは厳しく避けるべきでしょう。

この判決が出たことで、高齢の資産家に対しては、
案件の紹介を一時停止する不動産仲介業者も出ていると耳にします。
士業にも、顧問先の状況に応じたより一層の慎重な対応が求められそうです。


 

 既に資産蓄積がある顧問先の優位性を失わせるな

これまで、個人の顧問先に資産の組み替えを助言する際に
予め理解しておきたい税務上の留意点を述べてきました。
私自身も一税理士として、ご先祖様がつくってくれた財産的基盤があるご家族は本当に有利だ、
とつくづく思わざるを得ません。
今後、その傾向がますます強まっていくという予感を持つ先生も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
その財産的基盤を維持し、育てていくことが顧問先であるご本人や
そのご家族の人生をも左右しかねない問題であるという認識を、士業は強く持って、
顧問先と共にこの難局に当たっていかなければならないように思います。
本稿がその一助になることを願っています。

 
プロフィール
峯岸秀幸氏
税理士法人峯岸秀幸会計事務所
代表 公認会計士・税理士 

準大手監査法人と大手税理士法人に勤務後、2012年開業。
業務の傍ら税務における法律を大学院で学ぶ(修士「ビジネスロー」)。
日本公認会計士協会租税政策検討専門委員会副専門委員長などを務める。
https://minegishi-accounting.com/
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