元幼稚園教諭の社労士・木下典子氏が解説!社労士が保育業界にできること
- 2023.02.21
- プロパートナーONLINE 編集部
![](https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/s3-doupa-lp/e7b24b112a44fdd9ee93bdf998c6ca0e/ckfinder/img/admin/PP/230220_kinoshita_thumnail.jpg)
慢性的な人材不足に悩まされ、労働環境の改善が叫ばれる保育業界。
これから加速する少子化に向けて、経営面の改善も求められていきます。
そこで、幼稚園教諭の経験を持つアーチ社会保険労務士事務所の
木下典子氏が、保育業界における労務課題、
そして、「選ばれる保育園」を目指すために
社労士ができるサポートについて解説します。
幼稚園教諭や人材リテンションの経験を活かして
「仕事って楽しいと思える職場」をつくりたい
私は短大卒業後、幼稚園の教諭をしていました。その後、病院で総務部門の責任者として、
就業規則の作成やさまざまな認可業務に携わりました。
また、大手コールセンターで、スーパーバイザーとして
お客様満足度の向上や人材リテンションの施策立案・実施などを行っていたこともあります。
こういった経験を活かしながら、専門知識も身につけて
長くできる仕事は何だろうと考えていたときに出会ったのが、社会保険労務士でした。
現在、社労士としての私の強みは、採用をはじめ人材の定着や育成、
組織の活性化といった人事機能の支援です。
1号2号業務や給与計算はあまり受けておらず、コンサル業務がメインです。
コンサルティングのなかでも、
「働く」という本質的なことにアプローチしたいと考えています。
人は1日のおよそ3分の1の時間を仕事に費やしています。
その仕事がつらい、会社に行くのが気が重いという人を一人でも少なくしたい。
働くみんなが「金曜の夜より日曜の夜が楽しみ」と思える働き方ができて、
従業員エンゲージメントも向上して、
「うちの会社って格好いいよね」と思うことができれば、
人生も豊かになるのではないかと思います。
それは、働く人だけでなく、経営者にとっても良い効果をもたらすはずです。
従業員エンゲージメントが向上することで生産性が向上し 、
企業の利益が上がり、経営目標も達成できて、発展していく。
そのお手伝いを「人」の面からサポートしていきたいのです。
保育業界は長年、人手不足という課題を抱えています。
この背景には当然「人」にまつわる問題がありますから、
社労士にできることはたくさんあります。
私が勤めていた幼稚園と保育園では、厳密にいうとさまざまな違いがありますが、
「子どもの成長に関わる仕事」という点は同じ。
社会全体で考えていかなければいけない問題ですから、
多くの社労士の先生に関心を持っていただきたいと考えています。
木下典子氏
アーチ社会保険労務士事務所代表
社会保険労務士・採用定着士
幼稚園教諭、病院の総務部門の責任者、大手コールセンターのスーパーバイザーを経て、
2014年に社会保険労務士資格を取得。2015年から社労士事務所に勤務。
2021年4月に独立開業。経営者の気持ちに寄り添う社会保険労務士として、企業の人事をサポートしている。
ブログ『傾聴型モチベーション理論』では、採用からモチベーション管理まで、幅広く情報を発信。
https://arch-sr.com/
保育業界が人手不足となる3大要因は
「人間関係」「給与が安い」「仕事量が多い」
■保育業界の最大の課題は人手不足保育業界の大きな課題として長年取りざたされているのが、人手不足です。
厚生労働省の資料では、保育士資格保有者のうち、半数以上は業務に従事していないことがわかります。
いわゆる、潜在保育士です。
![](https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/s3-doupa-lp/e7b24b112a44fdd9ee93bdf998c6ca0e/ckfinder/img/admin/PP/230220kinoshitazu2.jpg)
出典:『保育士の現状と主な取組』(保育の現場・職業の魅力向上検討会、令和2年8月24日)
資格はあるけれども就職・復職しない/できない要因を考えると、
まず一つは、仕事量の多さと責任の大きさに比べて、給与が見合っていないという点。
そして、人間関係です。
東京都福祉保健局の資料によると、保育士の退職理由の上位3つが、
「職場の人間関係」「給料が安い」「仕事量が多い」となっています。
![](https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/s3-doupa-lp/e7b24b112a44fdd9ee93bdf998c6ca0e/ckfinder/img/admin/PP/230220_hoiku_gragh.jpg)
出典:「東京都保育士実態調査報告書」(令和元年5月公表)、東京都福祉保健局
保育士が悩みを抱える人間関係には、
職員間の人間関係と、保護者との人間関係があります。
職員間での人間関係は、保育業界に限ったことではありませんが、
ベテラン保育士と新人保育士との対立などは起こりやすいトラブルです。
たとえば、保育をするうえでは情報共有が重要なのですが、
特定の人にだけ情報を教えない、ということがあったりします。
経験が浅い保育士の場合、すでにできあがっている職員の輪に入れず、
先輩保育士に相談することもできず、
一人で悩みを抱えてしまうこともあります。
保護者への対応にも戸惑い、コミュニケーションがうまく取れずに
信頼関係を築くのが難しかったりします。
また、保育士は子どもを相手にする仕事なので、
自分のほうが強い立場にあります。子どもは反発できませんから、
ある意味、自分の思い通りにしようと思えばできてしまうのです。
そのような人がいると、周りにも影響を与えてしまい、
職場の雰囲気が悪くなりますよね。
そうなると、やはり採用時の見極めが肝心です。
スキルはあとから身につけることができますから、
人間性を重視した採用ができるかどうかがポイントになってきます。
■処遇改善があるものの、給与水準は平均より低め
次に給与ですが、厚生労働省の「令和2年賃金構造基本統計調査」によると、
保育士の平均年収は約375万円。
国による処遇改善の取り組みもあり、この水準は近年上昇しているものの、
全体平均が約436万円ですから、まだ約60万円の差があります。
その一方で、保護者から子どもを預かる責任の重い仕事ですし、
思いがけない行動をとる子どもが相手ですから、休憩も満足に取れないこともあります。
また、イベントの準備や保育計画の作成など、保育時間以外にも業務はたくさんあります。
これが、「仕事量の多さと責任の大きさに比べて、給与が見合っていない」という状況を生む一因です。
■採用の壁となるのは、配置基準
先ほど、採用時に人柄を見極めることが重要とお話しましたが、
そこにじっくり時間をかけることができない要因の一つに、
国家資格が必要となる保育業界特有の壁が存在します。
何かというと、国から定められた配置基準です。
![](https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/s3-doupa-lp/e7b24b112a44fdd9ee93bdf998c6ca0e/ckfinder/img/admin/PP/230220_230220_kinoshita_haichi.jpg)
保育園には、子ども何名に対して保育士を1名おかなければいけないという基準があります。
保育事業に力を入れている自治体では、国より厳しい基準を設けている場合があります。
この基準を満たせないと、最悪の場合、園を存続できなくなります。
そのため、欲しい人材だけを採りたいと思っても、そうは言っていられないケースがあるのです。
さらに、「辞められてしまっては困る」という状況から、
職員の指導においても慎重にならざるを得ない場合があります。
当たり前になっている業務を見直して
保育士の負担を減らした「選ばれる保育園」をつくる
人手不足を解消するためにどうすればよいのかというと、「選ばれる保育園」になることが重要です。
ある保育園では、募集をかけると応募が殺到するそうです。
なぜかというと、保育士を配置基準の1.5〜2倍おいているからなのです。
十分な人員がいることで、休憩もきちんと取れるようになり、休む場合も安心です。
保育士の負担が減れば、人間関係のトラブルも起きにくくなりますし、
たとえ給与が平均より多少低かったとしても、定着しやすくなります。
定着すれば、保育の質も向上し、子どもたちにも好影響です。
そして、さらに良い人材が採用できて園の評判も上がる、と好循環が生まれます。
とはいえ、人が増えれば当然、人件費も増えていきます。
認可保育園の場合、国からの補助金は子ども一人あたりの公定価格で決まっているため、
保育士が増えても支給される補助金は増えません。
また、保育料も自治体で定められた基準があるため、
保育料を上げて人件費を賄うことも難しいのです。
そうなると、企業努力で解決する必要があります。
たとえば、
・ICTを導入して事務作業を効率化する
・処遇改善加算をしっかり活用する
・助成金を申請する
といった取り組みができます。
経営者には、いま当たり前になっている業務を見直して、
保育士の負担を軽減していくことが求められます。
社労士が保育園に提案する際のポイントは「共感力」
現場を理解し、丁寧に課題を聞き出す
保育士の退職理由である人間関係、労働時間や環境などは、社労士がサポートできる分野です。保育業界は、社労士が入っていける、入るべき業界なのです。
たとえば、変形労働時間制を活用することによって、
残業による割り増し賃金を減らすことができるかもしれません。
園児の出欠席を紙やExcelで管理しているのであれば、
専用のアプリなどICTの導入サポートが可能です。
また、潜在保育士の多さを考えれば、復職しやすい職場づくりも必要でしょう。
〔社労士が保育業界にできるサポートの例〕
・労働時間制度の見直し
・ICT導入サポート
・処遇改善のための賃金制度見直し
・潜在保育士の復職支援
・採用定着支援
・助成金申請のサポート
・ルールブックなどを活用した、働きやすさの向上
・ブランディング支援
そして、社労士が保育園に提案する際に重要なことは、現場への「共感力」です。
これまでお話してきたように、保育業界にはさまざまな課題があります。
もちろん、それぞれの保育園によって状況も異なります。
その現場を理解せずに、「こうしたほうがいい」「これをやってください」と言っても、
「それはわかっているけれど、忙しくてできないんです!」となってしまいます。
保育士からしてみれば、「私たちの気持ちもわかってよ」と思いますよね。
ですから、提案するときに、現場の保育士の気持ちがわかっているのか、
わかっていないのかで、相手の受け取り方は変わってきます。
保育士の経験がなくてもよいのです。
まずは、しっかり話を聞いてあげて、理解することが大切です。
現在の課題をヒアリングして、「人手不足です」というのであれば、
「それは、なぜだと思いますか?」と、理由を深掘りしていく。
「労働環境が悪い」のか、あるいは「給与が安い」のか。
おそらく、その根底には人間関係があると思います。
給与がすぐに上げられないとしても、
世の中には給与が低くても従業員が辞めない会社があるわけです。
その違いは何かをヒアリングしながら、改善策を見出していく。
そのためには、まずは現場を知ることが大切です。
![](https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/s3-doupa-lp/e7b24b112a44fdd9ee93bdf998c6ca0e/ckfinder/img/admin/PP/230220_kinoshita_4.jpg)
社労士だからこそできるサポートで
保育業界の当たり前を変えていきたい
保育業界の課題は、社会全体で考えなければいけない課題です。保育士の地位を、もっと上げていかなければいけません。
保育士の専門性に関して、まだまだ認知されていないと感じます。
一方で、少子化が進み、2025年を境に保育所が供給過多になるといわれています。
すでに地方では、定員割れをしている保育所が増えている現状もあります。
つまり、「選ばれる保育園」になることは、経営面でも非常に重要なのです。
園児を大事にしたいのであれば、まずは保育士を大事にすることです。
入り口は、「ユニフォームがかっこいい」とか、
「休憩室がオシャレ」といったことでもよいかもしれません。
保育士の満足度を上げることで、園児にも良い影響を与えます。
社労士だからこそできるサポートで、保育業界の当たり前を変えていく。
そして、保育士からも、保護者からも選ばれる保育園を増やしていきたいのです。
保育士にもっと光があたる社会をつくれば、女性のキャリアアップや子育て支援の拡充、
ひいては、日本社会の活性化につながるはずです。
木下氏が監修!
保育園へのアプローチに活用できる『働き方ルールブック』が
アックス社会保険労務士パートナーズのサポートツールに登場!
アックス社会保険労務士パートナーズでは、社労士事務所の営業活動に“すぐに使える”チラシや提案書の雛形、
セミナー開催キット、職員研修ツールなどを提供しています。
そのサポートツールに、木下氏が監修した保育園向け『働き方のルールブック』が登場しました!
![](https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/s3-doupa-lp/e7b24b112a44fdd9ee93bdf998c6ca0e/ckfinder/img/admin/PP/230220_kinoshita_hoiku_rulebook_1.jpg)
働き方のルールブックとは、従業員に知っておいてほしい基本ルールを、
就業規則よりも簡単な言葉で、わかりやすくまとめた小冊子です。
保育理念や仕事をするうえでの姿勢・考え方なども書かれており、
経営者の思いを従業員に浸透させるためにも有効です。
「今回のルールブックには、職員同士のコミュニケーションについても記載しました。
保育士の人間関係が悪いと、一番影響を受けるのは子どもたちです。
また、園長の思いや保育理念を記すページもつくっています。
仕事のルールだけではなく、『何のために仕事をしているのか?』を
理解してもらえるような内容になっていると思います」と木下氏。
ルールブックを作成する際、就業規則の見直しや、賃金をはじめとする人事評価制度の課題など、
保育園が抱える課題が見えてくるため、社労士にとっては幅広い提案につなげることができます。
![](https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/s3-doupa-lp/e7b24b112a44fdd9ee93bdf998c6ca0e/ckfinder/img/admin/PP/230220_kinoshita_hoiku_rulebook_2.jpg)
〔記載事項〕
●当園の考え方について
・園長より
・ルールブックとは
●仕事の基本
・園児と保護者への対応
・私たちの役割
●業務ルール
・スケジュール
(開園時間・1日のスケジュール、年間行事)
・保育計画
・連絡のルール
(保護者への連絡について、緊急時の連絡について)
・コミュニケーション
(情報共有について、ホウレンソウ)
・環境整備
(用具や備品の取り扱いについて、保育室の環境整備、安全点検表など)
●就業ルール
・就業中のルール
(勤務時間、遅刻・欠勤、年次有給休暇の取得について)
・申請のルール
・業務に取り組む姿勢
アックス社会保険労務士パートナーズでは、
保育園向けルールブックをはじめ、さまざまなツールで社労事務所の売上拡大をサポートしています。
「新規顧問先を獲得したいけれど、営業ツールをつくる時間がない」
「提携先をどうやって増やしたらよいかわからない」
「顧問先にもっとさまざまな提案をしたい」
という先生は、ぜひお問い合わせください。
▼アックス社会保険労務士パートナーズの詳細・お問い合わせはこちら
https://bit.ly/3XubkWL
プロフィール
木下典子氏
アーチ社会保険労務士事務所代表
社会保険労務士・採用定着士
幼稚園教諭、病院の総務部門の責任者、大手コールセンターのスーパーバイザーを経て、
2014年に社会保険労務士資格を取得。2015年から社労士事務所に勤務。
2021年4月に独立開業。経営者の気持ちに寄り添う社会保険労務士として、企業の人事をサポートしている。
ブログ『傾聴型モチベーション理論』では、採用からモチベーション管理まで、幅広く情報を発信。
https://arch-sr.com/
社会保険労務士・採用定着士
幼稚園教諭、病院の総務部門の責任者、大手コールセンターのスーパーバイザーを経て、
2014年に社会保険労務士資格を取得。2015年から社労士事務所に勤務。
2021年4月に独立開業。経営者の気持ちに寄り添う社会保険労務士として、企業の人事をサポートしている。
ブログ『傾聴型モチベーション理論』では、採用からモチベーション管理まで、幅広く情報を発信。
https://arch-sr.com/
関連コンテンツ