M&Aグロースで日本最大級に成長した”税理士法人の先駆者”
- 2020.05.26
- プロパートナーONLINE 編集部
「人生で大事なのは、運と健康だよ」と笑いながら話す本郷孔洋先生。
いち早く法人化し、M&Aによって事業を成長させてきた「辻・本郷 税理士法人」。
かつては時代の波を見誤ったこともあるとのこと。
バブル後の経済成長やインターネットの普及するタイミングなどがそうです。
「ビジネスは半歩先を行かないとダメだ」
“ 税理士法人の先駆者” の積み重ねてきた経験は、次代を担う先生にとって、事務所経営のヒントや気づきを与えてくれるでしょう。
本郷先生の、これからの会計業界に対する洞察と助言をお送りします。
誰と出会ったかが人生の節目になる
広瀬辻・本郷 税理士法人の強みといえば真っ先に挙げられるのが職員数や拠点数ですよね?
事務所を開業したときから規模を意識していましたか?
本郷
事務所規模は後付けですよ。
40年前に事務所を設立したときは、顧問とスポットを合わせて100件取れればいいかなと思ってました。
規模を大きくしようと考え始めたのは、設立して20年ぐらいしてからかな......。
広瀬
どうして事務所規模を大きくしようと思ったんですか?
本郷
欲が出たんでしょうね(笑)。
100件取れたらから、それじゃあ次は200件を目指そうと。
あとは山田淳一郎さん(税理士法人山田&パートナーズ 名誉会長)に会ったこともいい刺激になりましたね。
人生の節目に誰かと出会うことはよくあります。
山田さんとは友だちだったけど、ライバルでもあったかな。
山田さんもライバル心はあったと思いますよ。
言葉に出したことはないけどね......。
半歩先を読むのがコツ 行き過ぎてもダメ
広瀬辻・本郷 税理士法人が成長するきっかけは、どこにあったんでしょうか
本郷
資産税の波に乗ったのが良かったんですかね。
開業して10年目ぐらいのときから資産税を扱い始めた。
当時は資産税がトレンドだったから反応がよかったな。
税目のトレンドは、日本の経済成長に合わせて変化しています。
戦後からだと「酒税」「個人の事業承継」「法人税」といったようにね。
ビジネスは次のトレンドを予測しなければならない。
ゴルフで例えるとフォロー(追い風)のときにスイングするのと一緒です。
広瀬
本郷先生にとってのトレンドを予測するコツって何ですか?
本郷
半歩先を読むということ。
でも、これが実に難しい。
行き過ぎてもダメ。
2000年ぐらいからインターネットに注力したんだけど、早すぎて効果がなかったこともあるから。
自分で「予測が当たった」と思うのは税理法人化したことかな。
2001年の税理士法改正で、税理士事務所も監査法人のように集約されると考えたわけです。
事務所を開業する前は監査法人に勤めていたけど、当時の職員数は300人ぐらいだった。
それが今では、5000人もの人が働いている監査法人がある。
30年で監査法人がここまで成長できたのは「M&Aグロース」のおかげなんですよ。
広瀬
「M&Aグロース」とは何ですか?
本郷
自社のリソースだけで成長する「オーガニックグロース」と、経営統合によって成長する「M&Aグロース」って言葉があるんですね。
監査法人のほとんどは「M&Aグロース」によって成長してきた。
M&Aは苗木をもらって花を咲かせるようなものだから、自前で種から育てるよりも楽ですよね。
広瀬
それで辻さんと合併して税理士法人化したんですね。
本郷
税理士法が改正する少し前に、たまたま辻さんと合併する話が出て、いいタイミングで、運がよかったと思う。
広瀬
当時は大きな合併に感じましたね。
合併した後の数年は、辻さんと別々に業務をされていましたよね?
本郷
最初の3年は辻さんと別々で仕事をしていました。
次の3年で一緒になった。
そのときはリーマン・ショックの前で景気がよかったから、売上が結構伸びて。
その後の3年はM&Aに注力しました。
振り返ってみれば、辻・本郷 税理士法人の歴史は3年で分けられるんです。
地方で稼いで都会で勝負。ある2人に影響を受けて
広瀬M&Aに注力したきっかけはあるんですか?
本郷
職員が現状に満足してしまって動かなくなったんだよね。
朝礼で私が話をしても、職員からの食いつきがなくなりました。
朝礼でみていると職員のやる気が落ちるのって、驚くほどわかりますよ。
幹部の目に覇気がなくなっていきますしね。
会社のモラルが下がるのって、会社の売上が悪いときだけじゃない。
会社がある程度調子が良くなったときにも起こるんです。
そんな社員の士気が低いときに、地方からのM&Aの話が出たんで、地方展開しようと決めました。
広瀬
地方展開って勇気がいりますよね。
本郷
ある2人に影響を受けて地方進出を決意したんです。
1人が毛沢東。
「農村から都会へ革命を起こす」という理論は毛沢東の有名な理論です。
現代風に解釈すると、地方から都会へ攻めろということですね。
もう1人がヤマダ電機の創業者である山田昇さん。
山田さんの書籍「ヤマダ電機の礎」を読んで、この人はただ者じゃないと感じました。
当時、ヤマダ電機は地方展開をしていたのだけど、「地方で稼いで、そのキャッシュで都会で勝負する」……なるほどと思いました。
そこで地方のM&Aを進めたんです。
ただ3年でM&Aの速度が鈍化してしまいました。
広瀬
どうしてM&Aの速度が鈍化したんですか?
本郷
私がマンネリになったことも理由として挙げられるんだけど、一番大きかったのは地方が疲弊していたこと。
中堅都市の事務所とM&Aをしても、なかなか売り上げが伸びてこなかった。
同じ時期にヤマダ電機も苦戦していたので、都市部への一極集中が進んでいったんだと悟ったんですよ。
そこで都会へ回帰しようと思って、東京や大阪の店舗数を自前で増やすことにしました。
鮭もビジネスもど真ん中は美味しくない
広瀬M&Aの鈍化は地方の疲弊が原因ですか。
都市部の店舗展開を始めたときはどのような戦略を立てたんですか?
本郷
この話を進めるうえで、ひとつ質問をしてみたいんだけど。
広瀬さんは鮭の身のなかで、どこが一番美味しいか知っている?
広瀬
えっ、鮭ですか?
ハラミですかね……。
本郷
実は科学的に証明されていて、鮭は皮と身の間が一番美味しいんです。
この話を聞いて思ったのが、「ど真ん中ってうまくない」ということ。
ビジネスも一緒だなと。
首都圏のど真ん中に店舗を出店しないで、郊外に出そうと思いました。
それで吉祥寺を選んだのです。
事務所のエース職員に運営を任せたから、吉祥寺事務所の成長は早かったですよ。
他には大宮や横浜にも店舗を出しましたね。
広瀬
なるほど。
鮭もビジネスも「ど真ん中は美味しくない」ですか(笑)。
ところで、本郷先生のように多店舗展開したいんだけど、支店を任せる人がいなくて困っているという税理士の方がすごく多いんです。
これについて先生はどのようにお考えですか?
本郷
初めて事務所を出すときは苦労しますよね。
そこに人材や資金を注力しすぎるわけにはいかないし。
経営はあるリソースでやらないと。
M&Aや地方出店を長年やってきて思ったのは、経営を現地に任せるのがよいということ。
本社から指示を出すよりも、現地の人に任せた方がいい。
その代わりオペレーションは、本社と統一しなければいけないけれども。
広瀬
「経営はあるリソースでやらないといけない」と言いますが、他の事務所からすると本郷先生は多くのリソースを持っているように見えますよ。
本郷
他の事務所にも優秀な人材は必ずいますよ。
ただ「地方へ行きたい」と思う職員がある程度いないといけない。
地方進出へ意欲的になってもらうためには、成功事例を見せるのが効果的。
成功事例を見せると、若い人でも行ってみたくなるものですよ。
参入障壁が高い分会計業界は成功への道が近い
広瀬M&Aや地方展開など、さまざまなことをうかがいましたが、事務所が成長した一番の要因はどこにありますか?
本郷
会計事務所だったからうまくいったかな。
飲食店を経営していたら、今みたいに成功していなかったかもね。
会計業界は参入障壁が高く、競合が少ない。
他業種は太平洋で戦っているのに比べれば、この業界は湖で戦うくらいの差があります。
広瀬
確かに、税理士資格はすぐに取れるものではありませんね。
それでも会計業界の競争は激化してきていると思います。
今後はどのような営業やマーケティングに取り組むべきですか?
本郷
インターネットは外せないね。
年間で1,000件の新規案件を獲得できる事務所もあるんだから。
この件数は昔だと考えられなかったよね。
またスマホにも対応しないといけない。
会社設立サービスをインターネットで集客しているんだけど、解析データを見ると7割の人がスマホからアクセスしていました。
新規件数が多くなりすぎると、生産体制に問題が起こるけど、最近はスキャナーのシステムも上がってるから工場化ができるんじゃないかな。
広瀬
Webマーケティングが今後は重要になってくるんですね。
取材をおえて
私が本郷先生に出会ったのは、今から25年近く前。
私の会社を設立してすぐの頃です。
当時の本郷先生はすでに100名以上の体制で、大きい事務所のひとつでした。
最初にお会いしたときの印象は、税理士や会計士らしくない「新しいタイプの人」でした。
具体的には、マーケティングや新しい発想に優れておりで、「借り物でない新しいキーワードをいくつも持っている人」という印象です。
今回の取材でも相変わらずの感性で、いろんなお話しに触れられました。
そして思ったのは、やはり「新しい人」でした(笑)。
本郷先生、本当にありがとうございました。
広瀬元義
プロフィール
辻・本郷 税理士法人(東京都新宿区)
前理事長 公認会計士・税理士
本郷 孔洋(ほんごう よしひろ)氏
1945 岩手県に生まれる。
1972 昭和監査法人(現 新日本有限責任監査法人)に入所
監査業務に携わった。
1977 本郷会計事務所を設立
水道橋に事務所を構え、税理士業務をスタート。
資産税を武器に100名規模の事務所となる。
2002 辻会計事務所と合併
「辻・本郷 税理士法人」を設立
本郷氏は理事長に就任。
M&Aで拠点拡大を図る。
現在では、提携企業も含めると約60の拠点があり、総勢1100名のスタッフが活躍中。
「辻・本郷 ビジネスコンサルティング株式会社」「辻・本郷 社会保険労務士法人」といったグループ会社もあり、多岐にわたる顧問先のニーズに対応している。
2016 新宿本部を「JR新宿ミライナタワー」に移転
きれいな眺めを見渡せるオフィス。
現在は300名の職員が勤めている。
カフェテリアではコーヒーメーカーが設置されており、落ち着いた雰囲気の中、お客様との面談が行える。
インタビュアー 広瀬元義
士業事務所を支援して30年目を迎える株式会社アックスコンサルティング代表取締役。
先駆者たちの思考を聞き出し、解析する。
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