次世代幹部育成やOKRでチャレンジする組織に変革



これからの士業事務所経営には、
職員と事務所が相互に成長をサポートする関係
「エンゲージメント」が重要となります。
今回は、職員が経営に参加する仕組みをつくり、
〝挑戦する組織〟へと変革した
社会保険労務士法人アドバンスの取り組みを
代表の伴芳夫氏に伺いました。



 

組織を縦と横につなぎ〝多能工化〞を目指す

社会保険労務士法人アドバンスでは、
「職員一人ひとりがプロフェッショナルになる」
というテーマを掲げています。

以前は、労働保険や社会保険の手続きなど、
特定の分野を深堀りする傾向にありました。
しかし、IT化により手続き業務はなくなる可能性がありますし、
限られた分野に強いだけでは時代の変化に対応しきれません。

そこで近年は、〝多能工〞なプロフェッショナル組織を目指すようになりました。
組織全体を横につないで連携し、
縦と横に人材が混ざり合うことで生まれるシナジーを大切に
しています。


創業して30年以上経つ事務所ですから、
20年近く勤めている職員も多く、平均年齢も高い。
福利厚生も比較的充実していますし、
働き方改革も積極的に取り組んでいますので、
40名超の規模にも関わらず、ここ3年間は退職者ゼロです。

一方で、昔ながらの風土が根強く残っていて、
変化に対応できない部分もありました。


そのマインドを変えてもらう必要があったため、
2015年に私が代表に就任し、
拠点を統合する2017年のタイミングで、
職員に求める『5箇条』を掲げました。

「コミュニケーションの徹底」
「変化を絶やさない」
「助け合いの気持ちを持つ」

など、当たり前のことなのですが、改めて宣言したのです。

職員も、この5箇条をスムーズに受け入れてくれました。
それぞれが問題意識を持っていましたし、私が事務所を承継したことで、
「自分たちの事務所は変わっていくんだ」
ということを理解してくれていたのだと思います。



 

参加型組織をつくりチャレンジを仕組み化

組織を変えていくにあたり、
一番の課題は「チャレンジ精神を持つこと」でした。

その取り組みの一つが、2019年から始めた部長の公募制です。
それまでは、いわゆる文鎮型の組織だったため
部長職を置いていなかったのですが、
「自分が部門を変えたい」「チャンジしたい」
という思いがある人に立候補してもらい、任せることにしました。

勤続年数に関係なく立候補できますので、
なかには自分より先輩たちをマネジメントすることになった部長もいます。


また、組織全体を横断的につなぐための仕組みとして、
4つの委員会を設けています。

そのうちの一つである「ジュニアボード委員会」は、
管理職ではない職員を集めて、
各現場からあがったさまざまな改革のアイデアを検討し、
決定、実現していく委員会です。

一定の権限を付与することで、
経営に参加する意識を持ってもらうことが目的
です。


もちろん、ジュニアボート委員会に参加している職員以外も、
全員が常に改善意識を持つことが大事です。
そのため、半年に1個以上改善のアイデアを出さなければ
賞与がもらえないルールにしています。

このルールも、特定の人しか意見を出さない現状を受けて、
ジュニアボート委員会が決定したことです。

ほかにも、有給休暇とは別に、
誕生日などにアニバーサリー休暇を取得したら
5000円支払われる制度なども、この委員会から生まれました。


毎月10個前後のアイデアを話し合うので、
変化のスピードはかなり早くなりました。
経営陣の会議では、現場ベースで出てくる
細かいアイデアは後回しになってしまいがちなので、
意思決定が早くなった効果はすごく感じます。





 

OKRを導入して個々の目標を見える化

職員一人ひとりのチャレンジに関しては、
2020年からOKRを取り入れました。

お客様に人事評価制度構築のサービスを提供しているのですが、
正直なところ、自社ではそれほど評価制度の必要性を感じていませんでした。
それは、文鎮型の組織で、
私がある程度全員の状況を把握できていたことが理由です。


しかし、部長職を設けたことで、
彼らが部下を評価できるようにならないといけない。
評価はマイナスの部分も見なければなりませんが、
そうしたものよりも、目標を立てて、
その目標に向かう姿勢にフォーカスを当てたい
それがOKRだったのです。


OKRを始めるために、アックスコンサルティングの『MotifyHR』を導入しました。
導入の決め手は、UI/UX(※)が良かったことと、
毎月のエンゲージメントサーベイがあることです。

OKRは、まず私が事務所全体のO(目標)を立て、
部長に共有し、部門の目標を立ててもらう。
それを、各職員が自分の目標とKR(成果)に落とし込んでいきます


そして、月1回の1on1面談で部長と進捗を確認しています。
部長たちは、
「OKRで目標が明確になり、1on1が効率的にできるようになった」
「部下とコミュニケーションが取りやすくなった」
と話しています。

また、職員も、日ごろ不安に思っていることや
自分のやりたいことを話す場ができたことで、
意見やアイデアをよく出すようになったと感じています。


エンゲージメントサーベイは、働きがいに関する調査ができるため、
職員がどこに不満や不安を抱いているのかを可視化できます。

当社の場合、全体的に評価は悪くないのですが、
これまでは年功序列的な昇進だったこともあり、
キャリアップの部分を低く評価する職員が多くいました。
ここはこれからの課題として、キャリアパスを整えているところです。



※UI/UX:ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス。
ユーザーの視覚に触れるデザインや、製品・サービスを通じて得られる体験のこと







 

士業事務所自らが顧客に誇れる組織になる

当社は、スーパーフレックス制度や
月曜〜土曜の間で好きな日を休みにできる選択休日制度などがあり、
かなり働きやすい環境だと思います。

さらに現在は、教育カリキュラムを整えて、
個々の成長スピードを加速しながら、多能工化を目指しています。


まずは、1年間でその部門の基本的な業務を
覚えてもらえるようなカリキュラムをつくりつつ、
希望者は閑散期に1週間程度、
他部門の業務を経験する短期留学制度を取り入れています。


また、クライアントのIT支援を行う株式会社を併設しているのですが、
従業員はその株を買えるようにしているほか、
若手社員を役員に抜擢しています。

株主は利益が出れば恩恵がありますし、
役員報酬をもらうためには株主の承認が必要です。
経営的な視点を養うと同時に、
チャレンジ精神のある職員のためのポストを用意し、
将来的な幹部を育成
しています。


士業事務所はお客様をコンサルする立場ですが、
実は自分たちはできていないことが多い。
でも、もう〝先生商売〞は通用しない。
自らが体現できている事務所にしか依頼は来ないと思っています。

そのためには、早く一般企業と同じ土俵に乗ることが必要です。
特に、私たち社労士が関わるHR分野は、まだまだブルーオーシャンで、
規制緩和されれば大手の民間企業が参入してくる可能性も高い。

そこに対抗できるようにしておくには、
まず自分たちがクライアントに誇れる組織をつくることが重要だと考えています。





※月刊プロパートナー2021年1月号より抜粋

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プロフィール

伴 芳夫氏

社会保険労務士法人アドバンス 代表社員 所長

地元鉄道会社に勤務後、2007年に入所。2015年より代表社員に就任。
近年では、年間30件超の人事給与制度コンサルティング業務に加え、セミナー・研修講師を多数務めるなど、多方面で活躍している。